不登校

冷静と情熱の間

不登校の子。

受診時に、学校に対する不満や不安がたくさん出てくる。

 

女の子
女の子
他の生徒の目が気になるんです。

 

男の子
男の子
算数がキライ。

 

女の子
女の子
給食が怖い。

 

男の子
男の子
先生が大きい声で怒鳴るし。

 

わかるよー。

不満だし、不安よな。

 

不安になると人は怒るので、不安と不安は基本同じもの。

不安と不満が渾然一体となり、学校に対するネガティブなイメージが膨らんでいく。

非常にわかる。

 

 

この子に、聞いてみる。

 

不安(不満)な気持ちはよくわかった。

その上で、じゃあ、どうしたい?

 

女の子
女の子
一刻もはやく学校に行きたいです。

 

……うん、難しくね?

 

理想と現実

理想として、「普通に」学校へ行く姿を思い浮かべているお子さんは多い。

そして、そんな親御さんも多い。

 

でも現実は、不安と不満に押しつぶされる日々だ。

理想と現実との間に、大きなギャップがある。

 

このギャップが大きければ大きいほど、僕たち支援者にできることは少ない。

手助けが難しいのよ。

 

 

目の前にある不安や不満。

解決できるものは解決し、できないものは許容し。

そんなふうにして一歩ずつ進むしか、道はない。

 

今の学校に戻るなら、休んでいた分クラスメイトは好奇の目で見てくるだろうし。

先生の大きな声が怖いのなら、その旨を説明して配慮してもらう必要がある。

 

転校やフリースクールを考えるにしても、算数はついてまわるし。

給食やお弁当だって、今後ずっと食べないわけにはいかないだろう。

 

だから僕にできるのは、

  • 具体的な対応方法の助言とか
  • 段取りを一緒に考えたり
  • 配慮してもらうための診断や書類
  • 不安を和らげる投薬
  • あとは、不満や不安をただただ聞く役割

このあたりでしょうか。

僕にできることって実際こんなもんで。

多くないんです。

 

 

でね。

受診する患者さんに、ニーズを聞く。

 

どうしたい?

僕に手伝えることある?

 

すると、こんなふうに返ってくる。

 

女の子
女の子
 学校に行きたい。

 

オッケー、じゃあ別室登校を依頼してみる?

 

女の子
女の子
不安すぎて無理。

 

じゃあ、不安を和らげる薬や漢方薬を試す?

 

女の子
女の子
それは絶対に嫌。

 

じゃあ、どうしたいの?

 

女の子
女の子
……学校に行きたい。

行けるようにしてください。

 

おぉい!

僕は一体どうすればいいんだい?

 

やい、とかげ!

 

「したい」と「すべき」

いや、わかるんですよ。

この子は多分、「したい」と「すべき」の区別がついていない。

学校に「行きたい」のか、はたまた学校に「行くべき」なのか。

学校に行きたいんだけど、行けないんだけど 休みがちな子からよく聞くセリフ。 本人は行きたいと言う。 でも、実際は行ってない。 なぜに? ...

 

本音は無論、行きたくないのだ。

でも、行くべきだとは思っている。

 

この子の中でのゴールは、学校に行くこと。

それが「普通」で「正解」だからね。

 

でも、実際そうしたいかというと、全っっっっっ然したくないわけ。

学校キライだし。

イヤなわけ。

 

だから、一向に足は向かない。

今の場所から一歩も動かない。

学校なんて、怖いし、キライだし。

 

 

でも診察では、もしくは親や先生に聞かれたら、「学校に行きたい」と言う。

じゃあってんで学校へ行く手伝いをしても、一歩も動かない。

 

やい、とかげ!

 

 

申し訳ないけど、こんなケースは相談に来てもらってもあまり意味がない。

意味はあるのかもしれないが、話は進まない。

解決には向かわないのだ。

 

 

お子さんがこんな感じのこともあるし、親御さんがこうなこともある。

 

母
不安を軽減してほしいのですが、投薬はイヤですし、別室登校も無理です。

かといって、このまま現状維持も不安なようで。

どうしたらいいですか?

 

やい、とかげ。

 

よみがえれ、はりよ。

 

気持ちはわかるが、そりゃちょっと僕には荷が重い。

解決策、聞かれても分からん。

 

 

目指すゴールと現状との間に、とてつもなく距離があるケース。

気持ちはわかるのだが、ゴメン、僕にはなにもできねぇ。

 

現状の不満や不安を列挙し、「ハイ解決してください」と言われても、正直困ってしまう。

Lv1だけど魔王を倒したいです、みたいな。

高尾山も登れないけどエベレスト目指します、みたいな。

 

冷静に考えればお分かりいただけると思う。

ワープはできないんですよ。

現状を受け入れ、できることからやるしかない。

本人にその気がないのに、無理矢理動かすなんて不可能なのだ。

 

でも、不登校児や親御さんはパニックだ。

無茶な論の飛躍をされるケースはたくさんある。

場合によっては、無理難題をひっさげてドクターショッピングをしているケースも。

多分、どこの病院に行っても、どこの窓口に相談しても、思うような解決策は得られない。

気持ちはわかるし、仕方ないのも理解できるんだけどね。

 

 

結局この部分は、僕たちには手が出せないのだ。

本質は、本人が腹をくくること。

ドアノブは内側にしかないのだし、本人が現状を受け入れ、じゃあどうしたいのか自分と向き合うしかない。

僕らにできるのは、お手伝いだけだ。

 

なにが不安(不満)なのか、足元を固めて。

どこまでのトライなら可能なのか、現実を見据え。

その上で相談に来てほしい。

 

以前にも書いたけど。

なにを相談したいか、じっくり煮詰めてから来ていただけると、受診の効率も上がるように思う。

予約の前に深呼吸 〜初診は6ヶ月待ち⁉︎〜「発達外来初診は6ヶ月待ちです。」 これは、僕がアメブロで書いているブログのタイトル。 あ、今は書いてなくて、更新の...
発達外来が6ヶ月待ちってマジ卍 「子供の発達が気になる」 「学校で暴れたらしく、受診するよう言われた」 「受診を反対していたパパの同意がやっと得られ...

 

まとめ

不安や不満がたくさん出るのは、素晴らしい。

不安(不満)を認識し、言葉にする。

すべてのスタートはここだ。

 

なんだけど、そこからいきなりゴールまでジャンプする方法となると、相談を受ける側としては非常に厳しい。

いろんな想いが溢れてくるのはわかるが、同時に冷静な視点も持つと、見えてくるものがあるだろう。

 

同様に、ご家庭でお子さんの現状と理想の間、つまり冷静と情熱の間に巨大なギャップがあるとき。

この時も、親御さんのサポートは難しいように思う。

なにかしてあげたいという親心は痛いほどわかるけど。

本人を待つしかない。

 

 

やい、とかげ。

せっかく生えたしっぽ、なくすなよ。

せっかくの相談機会、うまく使えよ。

POSTED COMMENT

  1. 迷える母羊 より:

    処理速度凹ということは判明(児相にて)していて、自責の念があることは分かっていたけど、病院に受診したことはなく小学校は皆勤で学校を休むのを嫌がるような娘が、中学校の夏休みの出校日から学校に行けなくなりました。

    その前日、母の側に突然泣きながらやって来て「消えてなくなりたい」

    思春期に問題が起きるかも知れないと思っていたけれど、数日前まで前向きな発言をしていたので、青天の霹靂でした。

    息子の通う病院に初診予約しようとしたら、予約中止中でした。

    出校日に学校に呼び出され(本人は行かず)事情説明を求められました。
    宿題が終わっていないことを苦にしているのでは?と母の見解を伝え、本人が登校したいと言うまで休むと伝えました。
    学校からは宿題は出来てなくても良いからと言われ本人には伝えました。

    時々担任から様子伺いの電話があり、1ヶ月位で来週から登校すると約束をし、登校しましたが、当然登校した日に宿題が出され終わらなくて翌日からまた不登校になりました。

    学校以外の習い事や塾等には参加していたので、「消えてなくる」心配はとりあえず回避出来そうだと思い、ただ見守っていました。

    体育会のある日には母も仕事の休みを取っていたので、ストレス発散に7時間カラオケしました(笑)

    不登校から2ヶ月頃に息子の事で主に行っていた教育相談センターの面談に同席させました。

    心理士さんが学校に行きたくない理由を聞き出してくれたのですが・・・

    宿題が間に合わないからだと言う。
    ↑出来なければ出来なかったと言えば良い。先生からもそう言われてたのに・・・

    やって来たか聞かれるのも苦痛だったらしい。

    部活が疲れるから嫌だと言う。
    ↑頑張るから欲しいと言われ月賦でトランペット買ったし、本人も夏休みに自衛隊の演奏聞いて自分も上手く吹けるようになりたいと言ってたのに・・・

    学校に宿題は出来てるものは自ら出すからやって来たか聞かないで欲しい。部活は休部にして欲しい。

    その2点をお願いするだけで復学出来ました。
    部活を休部したことで、時間が出来、宿題もほぼ出せるようになりました。

    大きなジャンプは必要じゃなくても
    その事に気づけなかった。

    大丈夫って伝えてたから(宿題提出)大丈夫だと思ってだけど、本人には大丈夫じゃなかった。

    こんなケースもあるよって話。

  2. らら より:

    いつもこのブログに救われています。このブログに辿り着けて本当によかった。内容はもちろんですが、先生の文章のファンです!(ジャンプ好きだし)
    中1娘は担任の先生が大嫌いで、担任の授業で過呼吸の発作を起こしたのをきっかけに不登校になりました。もともと活発で優等生タイプで、そんな自分に疲れていたのかもしれません。今、絶賛暗黒期、充電中ですが、家でゆっくり好きなことをしてたまるエネルギーよりも、不登校が続くことで雪だるま式に増える心配事をあれこれ考えて消耗するエネルギーの方が多くて、エネルギーがたまっていないのでは?と感じています。まだ行けなくなって2ヶ月だし、時間が経てば変わってくるのかもですが。本人の頭の中でマイナス思考がぐるぐる回って、どんどんどす黒い雲に絡め取られていっているように見えてしまいます。嫌がるけどカウンセリング受けた方がいいのか?迷います。家を快適にして見守るのも精神力いりますね。今の娘はマンガが全てで、ハイキューを読んで親子で泣いています。

  3. 匿名希望 より:

     P先生、いつもありがとうございます。

    「普通」ではない自分を認めて生きるか、自分も「普通」の範疇に入るコミュニティを見つけるかを、考えていくしかないって事なのかなって思いました。みんながかかる「中2病(かなりの割合で高校生まで続くので、あくまで発症が中2と思ったほうが親の精神衛生上いいかも)」の思い描く「普通」って、エベレスト並みに理想が高いから、すぐには難しいかもしれませんが。「他の生徒の目が気になるんです。」「算数がキライ。」「給食が怖い。」って、実際に口に出した事柄だけが辛いんじゃなくて、「登校して与えられたミッションを次々難なくこなすキラキラした自分」でないのが辛いんじゃないかという気もします。

     思春期というのは、エベレスト(標高8849m)なんて登りたい人が登ればいいのよ、でも高尾山(標高599m)くらいは楽しめるわ、という割り切りと図太さを身につけていく期間なのかもしれませんね。まず初めは弁天山(標高6.1m)くらいも楽しそうですね。

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