発達障害

言ってくれなきゃわからない

先日の、立てこもり事件を受けて。

 

僕は全然詳細を知らない。

ニュースで見る程度。

だから、あの事件について何か言う気はない。

資格もない。

個人的には反抗動機や背景に興味があるので、続報を見守っているところ。

 

 

今回、僕が言いたいこと。

 

この人に銃の所持を許可した、だと?

 

↑コレについて。

 

診断とか、診断書とか

ニュースによると、犯人には幻聴や妄想の症状があったらしい。

ニュースの範囲だから、本当かどうか知らないけど。

 

でも。

じゃあ、銃を持たせちゃダメじゃね?

精神科医は、なんで許可したの?

 

という話を聞いた。

 

もっともだ。

精神的に不安定なら、銃の所持はダメだ。

 

なんだけど。

 

これ、正直わかんねーです。

 

僕は担当した精神科医と何の面識もなけりゃ何も知らないんだけど。

でも、正直ムリだと思う。

 

本人が、

「自分には幻覚と妄想があります。抑うつも強く、非常に不安定です。」

とか言ってくれたらわかる。

 

でも、この人は銃が欲しかったんでしょ?

じゃあ、言うわけない。

 

「健康です。問題ありません。」

って言うに決まってる。

 

そしたらさ。

医者、わかんねーです。

 

 

そりゃ、明らかに挙動不審とか鬱々としてるとかならわかるよ?

でも、普通に受け答えされちゃったら。

これを見抜くのは至難の技だ。

少なくとも僕にはできる気がしない。(僕は精神科医じゃないので実際のところはわからない。想像でしかないけど。)

 

今日は、その話を書きたいと思った。

 

発達外来にて

言ってくれなきゃわかんねーんです。

これ、発達外来でも同じで。

 

受診に来ました。

ハイ、この子にはどんな症状がある?

 

多動や衝動性が、あるのかないのか。

こだわりやコミュニケーションの問題が、あるのかないのか。

そして、それらで困っているのかいないのか。

 

言ってください。

じゃないと分からない。

 

 

身一つで来て、

「どうですか? この子に発達障害はありますか?」

って聞かれることがあるけど。

 

すみません、わかんねーっす。

 

生育歴や集団適応、日々の生活、特徴的なエピソードなんかを詳しく聴取して、診断に至るわけで。

目の前の、「今のこの子」だけを見ても、診断はつかない。

 

医療関係者じゃない方で、

病院に行けば(検査をすれば)、白黒ハッキリ病気の有無が分かる

と思われている方が一定数いるようだ。

 

専門家じゃないので、仕方ない。

そう思う気持ちはわかるけど。

 

すみません、誤解です。

正直わかんねっす。

 

  • 普段はどんな様子で
  • それはなぜで
  • どんなふうに困るか

の情報がないと、僕らにはわからない。

少なくとも、僕にはわからない。

 

子ども特有の難しさ

言ってくれなきゃわからないんです。

訴えと、目の前の患者さんの様子とに整合性があり、納得できるストーリーがあって、初めてじゃあ診断となる。

 

他の可能性を否定するために、周辺情報も詳しく聴取する。

出てくる情報によって、診断も治療方針も変わる。

 

 

でね。

ここで、小児特有の難しさと直面するわけです。

 

本人、何も言わないのよ。

 

↑これが困る。

 

 

男の子
男の子
幼少期から落ち着きがなく、今でも忘れ物が多いです。

先日は重要な書類を紛失し、トラブルになりました。

 

なんて言ってくることはありえない。

 

どんな特性で、どの程度困るのか。

本人が客観的に評価しまとめてくることは、小児ではありえないのだ。

ここが大人と違うところ。

 

実際、精神科では上記のような感じと聞いた。

さらに「ADHDの特徴に当てはまると思います。投薬を希望しています。」まで言ってきたりするって。

そりゃ話が早い。

 

 

小児では、こうはいかない。

大抵のケースで、本人は困っていない。

困っていても、その困り感を客観的に評価、そして表現などできない。

 

じゃあどうするかって。

本人以外から話を聞くしかないのだが。

 

 

本人以外、多くは親御さんだ。

親御さんに、

  • 普段はどんな様子で
  • それはなぜで
  • どんなふうに困るか

を聞くことになる。

 

当たり前だけど、ここで一つフィルターがかかる。

どうしても「親御さんから見て」の情報になるのだ。

 

親御さんは、直接トラブルを体験していない。

「こんな感じらしい」という情報から、「この子の性格からきっと〇〇と考えたのだろう」と予想するしかできない。

本人じゃないので、想像でしかない。

 

そうです。

どこまで正確か、不透明なのです。

 

 

親御さんは全然悪くないし、そうするしかないんだけどさ。

あくまで「想像の範囲」となる。

これ、小児の特性上、避けては通れない部分。

親御さんから話を聞いて、本人の様子と照らし合わせ、時には学校や療育、各種支援機関からの情報も加味してストーリーを組み立てていく。

 

ひとことで言う。

手間がかかるのだ。

 

「そういう目」で見ないとわからない

しかもさー。

親御さんというフィルターを通す以上、親御さんに付いていないアンテナは作動しないのよ。

 

こんな子がいた。

LD (学習障害)を疑って受診したケース。

 

母
LDだと思うんです。

読むのも書くのも苦手で。

計算も苦手なんです。

 

ADHDが鑑別に挙がるので、僕は周辺情報を聞く。

 

ケアレスミスは多いですか?

不注意はありますか?

忘れ物は?

 

母
え……特にないと思います。

忘れ物は時々ありますが、まぁ子どもなのでこんなものかと。

 

実際どの程度「書けない」のか、ノート等の持参がないので不明。

1回なら書けて何度も繰り返すとイヤになるのか、そもそも1回も書けないのか。

計算や読字も、興味のある分野ならできるのか、全般ダメなのか。

 

親御さんは、「LDだと思うから診断してちょ」という頭で来ているから、周辺情報が全然ない。

「書けない」が実際どのレベルでの話なのかも不明。

 

診察室で簡単な読み書きをしてもらうと、まぁ年齢相応に見えるけど……。

で、不注意が結構目立つけど……。

 

果たして、この子はLDの検査で不注意が顕著。

やはりLDよりADHDが疑われる。

ここから、ADHDの情報の集め直し、方針の立て直しだ。

 

 

こんなふうになる。

親御さんが「LD」一本で考えていると、ADHD特性へのアンテナは立てられない。

情報がなければ、こちらもわからない。

 

まとめ

 

言ってくれなきゃわからない。

 

そして

 

小児では本人以外(多くは親)から聞くので、情報が曲がることがある。

 

この分野は、数値化できない。

白黒はっきりするような検査もない。

「病院に行ったら全てが詳らかに!」なんてありえない。

聴取した情報から組み立てる、つまり「言ってくれなきゃわからない」のだ。

 

 

子どもには、困りごとを言語化させるのがマジ大事。

少しずつ、訓練してほしい。

でも、小さいうちはムリなので、親御さんから聞くしかない。

 

大人の診療でも、認知の歪みはあるだろう。

本人の訴えがイコール事実とは限らない。

それはそれで大変だろう。

 

その上で、小児の診療には特有の難しさがあるなぁと常々思っている。

時間もかかるし。

子ども、途中で飽きてグズり出すし。

ただでさえ煩雑なのに、情報収集も難しいときたもんだ。

 

非常に難しい。

診療報酬上げてくれねーかな。

POSTED COMMENT

  1. 匿名 より:

    私も医療関係者です。
    診療報酬、わかります。
    親にも何も言わず、何を考えているかわからない状態で、学校からは病院に行けと言われて受診。
    Dr.を前に本人「頭のどこが痛いの?」「全部」「どんな風に?いつ?」「いつも」「他には?」「…別に…」でDr.も「…」
    患者さんのために一生懸命話を聞こうとしてくれたDr.に申し訳なく思いました。
    先生はエスパーじゃ無いのですから、見えないものは見えませんよね(笑)

  2. ピンポン より:

    我が子は小1男児、ASDで受診する立場です。
    医療報酬は上げてあげられないですが、P先生をはじめお医者さま側の主張(?)もわかる気がします。
    私の場合も子の困り感がうまく伝えられていない気がして、勝手に「言っても伝わらないなー」とか思っていました。行政の支援センターのスタッフさんに対してもそう思っていたぐらいです。
    当時は普段の子の様子から、発達障害なのではと疑いだして、同時にそんなことないと思いたくて、周囲のペリーの反応も気になるしで、私の気持ちはぐっちゃぐちゃでした。
    そんな中でまともに状況を説明できるわけもなく、貴重な診察の機会にモヤモヤをつのらせる悪循環(´д`)
    時間がかかるのは親の動揺の度合いも影響している気がします。

    そして、子どもの状態を受容しつつあった頃、日々のの困り感を事実のみ淡々と綴る日記のようなものを書いていました。それをパソコンでまとめたものを受診の時に持っていって医師に話したら、支援センターからの意見書的なものも相まってその場で診断が下りました。
    客観的な情報をどう集めて伝えるかって本当に難しいですね。
    我が家は(観察)日記が役立ったけれど、親御さんと医療側を繋ぐツールってあんまり聞かないから、その辺りどうにかならないかなって思ってしまいます。

  3. より:

    診療報酬を上げる権限はないけど、尊敬の眼差しを向けております。P先生お疲れサマンサ、かっちょえーぜ素敵だぜ(っ´ω`c)

  4. 夜空 より:

     私は教員。昔は給料以外にいろいろ手当てついたし、人もいたのでそこまで文句はなかったけど。
     今はほとんどのとこがボランティア。そして日々仕事が増えています。
     電気代ないそうで5時にはコピー機とか電源オフされます。
     生徒のためになる仕事ならまだしも書類の作成に追われる日々。先生になる人いないの分かります。
     あ、気がついたら愚痴ですね。
     もっと子供たちにゆとりあげたらp先生の仕事減るかもです。教員がもっと生徒たちの話聞いてあげた方がいいですもん。
     あれやれこれやれって、私たちみんなで疲弊してます❗

  5. 匿名 より:

    医療関係者です。なので、わかりみが過ぎる。
    診療報酬上げてくれ 確かに、切実な願いw

  6. ふわり より:

    P先生こんにちは。
    毎日お疲れ様です。

    先生も色々困りごとがあるんですね。
    自分以外の人間のことは全ての人に対して自分のフィルターを通して見ているので、どうしても本人が感じていることとは少なからず相違が生まれてしまうものだと思います。
    うちの5歳の子供の場合、やはり困りごとを言語化するのが難しいようで、疲れて話の途中で終わらせようとします。
    こっちとしては、どうにかして聞いてあげたいのですが…。

    診察を受ける前に、どういう困りごとがあるのか家で事前に気になる項目について詳しく記入していただくのはどうでしょう?
    Yes/Noチャートのようにある程度困りごとを絞っていくようなやり方だと、親御さんも答えやすくていいように思います。こんなこととっくの昔にやってるよ!って場合はすみませんm(__)m
    きっと親御さんも初診の場合は、何をどうしたらいいのかもわからない方も多いと思います。
    やはり周りと比べてどのラインなら相談するべきなのかすらわからないという場合もありますし。

    親御さんもP先生も子供のためにどうにかして助けてあげたいという思いは一緒だと思うので、少しでもお互いの負担が減る方法があれば一番なのですが…。
    私は、いつもこちらのブログを読んで助けられています。ありがとうございます。

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