「わかっちゃいるけどやめられない」
これは人間の真理をついた言葉だと、個人的に思っている。
さすが植木等、そしてさすが青島幸男。(作詞) (そして昔の都知事) (踊る大捜査線で「都知事と同じ名前の青島です」って言ってた) (懐かしい)
わかってる、でもやっちゃう。
そうなんだけど、でもそれだと人生に不都合があるわけで。
感情の振れ幅
こう見えて、僕はかなり情緒が落ち着いたタイプと自負している。
くだらない小ネタなんて、リアルでは絶対に言わない。
目に見えて落ちこみ周囲から心配される、なんて経験もない。
結構ひょうひょうと、淡々と生きているように見えるらしい。
だから特段好かれることがない代わりに、特段嫌われることもない。(と思っている) (実はめちゃめちゃ嫌われているのかもしれない)
仕事では、テンションを上げすぎるとあとでしんどくなるので、努めてトーンを下げている。
もちろん患者さんのキャラクターに応じて接し方は変えるんだけど、その振れ幅もあまり大きくないように思う。
結果、情緒が安定して扱いやすい社会のコマ(良い意味で)となっているんじゃないかと自負している。
で。
そんな自分は割と異端で、人って思った以上に感情の振れ幅が大きいようだ。
もちろん「何を考えているかわからない」「感情が顔に出ない」「ペッパーの方がまだ人間味がある」と評される自分とは異なり、喜怒哀楽を素直に表現できる周囲の人々のことを、心からうらやましく思っている。
自分を素直に表現することがコミュニケーションの第一歩となると、身に染みて分かっている。
僕は友達がいない。
人と目を合わせられない。
ペッパーですら、目が合うと反射的に逸らしてしまう自分のモブ臭がひどい。
だから、感情の振れ幅が小さいことを是とするわけではないことはご理解いただきたい。
「わかっちゃいるけどやめられない」
その前提の上で。
「わかっちゃいるけどやめられない」
この魔法にかかり、あとで考えればわかるような、ちょっとアレなことを実際にやっちまう人がいるのも事実だ。
道頓堀に飛び込んだり。
徹夜明けで意味不明な買い物をしたり。
ダイエットのストレスに耐え切れずドカ食いとか。
で、ですよ。
この分野の診療でも、「わかっちゃいるけどやめられない」は非常によく聞く話なわけです。
- 指名される前に答えを言っちゃう
- つい友達にちょっかいを出しちゃう
- 考えても仕方のないことを考えて、眠れない
- どうしても「ヤダ」って言えない
- 人の成績と比較してしまう
- つい死にたくなって……
親御さんにもよくある。
- 小言を言っちゃう
- 進路の話をしちゃう
- 自分や子供を卑下しちゃう
- 急に不安になって、子供に余計なことを言っちゃう
- とにかくイライラしちゃう
こんな感じ。
あとで冷静になるとわかる。
外来受診ではこう言ってくれる。
でも、友達の話を聞いたらつい比較して不安になってしまって……。
でも、夜中までテレビを見てケタケタ笑っているのを目の当たりにすると、つい……。
そして、そんな自分をまた責めて。
感情がさらに揺れて、またしんどくなって。
その勢いで別の地雷を踏んじまって、二次被害が拡大したり。
お薬出しますか?
外来診療で、神経の昂りを抑える薬を出す場面がよくある。
漢方だと、抑肝散とか甘麦大棗湯とか。
「とにかく落ち着いて」というときに出す。
上がりすぎ(下がりすぎ)た気持ちをフラットにしたいときに飲んでもらう。
そう。
落ち着いてほしいのだ。
なぜこんなことをやっちまうかって、感情が昂っているからだ。
気持ちが大きく振れたときは、まず落ち着くのがセオリー。(もちろん楽しいときは良い。それ以外のときは落ち着いてほしい。)
特に、ヘンなテンションのときに何かを決定するのは避けたい。
大抵ヘンな選択をしてしまう。
怒っているときや落ち込んでいるとき、興奮しているときに、物事を決定してはいけない。
決定はフラットなときに、がセオリー。
それでも落ち着けないときは「動かない」
なんだけど。
そんな時、ありますよね。
そういう時は、「動かない」。
これをオススメする。
何もしないってこと。
自分の感情がフラットじゃないと自覚できるとき。
これはもう、何もしないのがベター。
何もしない。
行動しないだけじゃなくて、思考もしない。
全部止める。
なんとかしようと足掻かない。
その状態の善悪を評価しない。
どこで間違えたのか、間違い探しを始めない。
卑屈にならない。
相手の悪いところを探さない。
ポジティブになろうとしない。
チョイと一杯のつもりで飲みにいかない。(コロナだしね)
とにかく止める。
全部ストップ。
これが一番成功率が高い(ヘンなことをやらかさないという意味で)と思う。
人は感情的になると、動きたくなってしまう。
感情爆発のエネルギーで、何かを動かしたくなる。
それは非常に理解できる。
でも、ここであえて止まる。
ちょっと待つ。
例えば怒りの感情は、6秒でピークを越えるらしい。
つまり、イラッときたら6秒待てば思考能力がかなり戻ってくるということだ。
怒りに任せて余計なことを言うより、6秒待つ方が良い。
まずは数秒単位から。
可能なら一晩。
寝てしまうと翌朝にはかなりフラットな状態になっているだろう。
場合によっては数日寝かせてじっくり熟成させた方がよい場合もある。
何もしないのは、ベストな選択ではないかもしれない。
でも、ベターだ。
最悪を避ける意味って非常に大きいと思う。
しんどいときに休むのは、心と身体を守るためだ。
無理なことを無理強いしないのは、二次障害を起こさないためだ。
「動かない」は、ベストじゃないかもしれないけど、いつだってベターな選択肢だ。
落ち着いたら、じゃあベストは何か、しっかり考えたらよい。
落ち着きさえすれば、あなたには思考する力がある。
お子さんにも同様にある。
僕は僕の選択を信じてるし、責任を取る。
でも当直明けと空腹時にした選択については、マジで理解ができない。
まとめ
- 決定はフラットなときに
- フラットになれなければ、「動かない」
「わかっちゃいるけどやめられない」
昔、青島幸男(元都知事)が言った。
レインボーブリッジは封鎖できなくても、感情的になったときの一時停止は非常に有用だと思う。
自分はそうじゃないのに、感情の振れ幅が大きい人のことがちゃんと分かってすごいです。
先生のブログの内容って、勉強したからって分かることじゃないと思います。
何度も頷きながら読んでいます。
心から納得できるし、いろんな本に書いてある『こうすればいい』じゃなくて『こうした方が自分や子供にとっていいかも』みたいな、しかもできそうなことを分かりやすく提案してもらえるので、読んで心がラクになります。
感情の振れ幅が大きいのって、特性とか環境が原因なのですかね…
いつもいいお話ありがとうございます。
大体やらかすのは寝不足のときです、40すぎてるのに8時間ねないとだめ。