HSC

HSC 〜ひといちばい敏感な子〜

中2女子です。

 

女の子
女の子
ここ1ヶ月学校に行けていません。

少し前から朝起きられず、頭痛や腹痛がありました。

修学旅行で疲れたのか、症状が強くなって、早退やお休みが増えて。

行かなくちゃって思うんだけど、なんとなく行きづらくて。 

 

朝は特に調子が悪いんだね。

では症状が治まった午後から遅刻して登校はどう?

 

女の子
女の子
 遅刻するのは嫌なんです。

行くなら朝からちゃんと行きたい。

みんなの目が気になっちゃう。

 

じゃあ保健室登校は?

まずは教室ではなく保健室なら通えそう?

 

女の子
女の子
それも……。

休み時間は女子の溜まり場になっていることも多いから。

 

親御さんに聞く。

この子って、どんな子ですか?

  • もともとは全く問題を起こすタイプではなく、むしろ真面目な優等生。
  • 勉強はできるし、宿題も完璧にこなさないと気持ち悪い。
  • 誰とでも仲良くでき、トラブルなし。
  • 先生からの評価もよい。

 

もともととても真面目ないい子で、優等生だった。

友達とのトラブルもない。

 

母
 お休みが続いているので、登校のハードルが上がってるのだと思います。

1回行けちゃえばあとは続けて登校できると思いますが、その1回が難しい。

しんどそうな日は本当にしんどそうなので、どこまで声をかけていいか。

でも親が何も言わないとずっと登校しないだろうし。

 

HSC

ひといちばい敏感な子、という言葉が市民権を得つつある。

  • 大きな音が苦手
  • すぐびっくりする
  • 神経が細やかで小さな変化によく気がつく
  • 感受性が豊か

などの特徴を持った子供たちだ。

 

 

最近は外来で親御さんからHSCという言葉を提示されることも珍しくない。

どの人種、民族にもおよそ5人に1人の割合で存在すると言われている。

性差もない。

他にどんな特徴があるのかは、ネットや書籍で多く説明されているので、興味があればご一読を。

 

 

虫や哺乳類など、ヒト以外の種族にも多く確認されているらしい。

この性質は生まれ持ったもので、育て方や環境などの後天的な要因ではない。

HSCの児の両親は、そのどちらかが同様の性質を持つことが多い。(どちらも非HSCタイプのこともあります)

 

これは、人類の生存戦略である。

僕が外来でよく使う、羊の例を示す。

 

羊は草を食べる。

しかしあまり巣から離れると狼に襲われる危険があるため、巣の近くの草しか食べない羊が一定数いるという。

 

この『臆病な羊』は狼にやられて命を落とすことはない。

一方で、羊がみんな臆病で巣の近くにいると、草が足りずに羊という種ごと絶滅してしまう。

新たな餌場を探す羊も必要だ。

こうした様々なリスクに備え、種として存続する可能性が上がる仕組みが働いていると考えられる。

 

人間も同様で、チャレンジ精神が旺盛な個体怖がりな個体と両方いる状態が、種としての生存確率を高める。

HSCは、まだ起きていない状況(特に悪い状況)に対して「こうなったらどうしよう」「こんな状態になったら嫌だ」など想像を巡らせる。

また小さな変化を察知し、そうなった原因を考え、その後に起きることを予測する。

実際に困った状況になった際に生き残る可能性が上がると考えられる。

 

 

そう考えると、HSCは人類全体にとって必要なものだ。

もちろん全人類がHSC的だと文明は発達しない。

思い切ってやってみる、という機会が極端に減るだろう。

HSC非HSC、両方がいて人類はここまで発展してきたのではないだろうか。

 

しかし。

両方がバランスよくいるとよいのだが、実際はHSCは5人に1人と少数派だ。

学校など集団生活の場は、多数派の非HSCを基準に作られている。

すると、HSCは疲れてしまうのだ。

 

本人は刺激を避けるため叱られるようなことはしないのだが、お構いなしに騒ぐ子がいる。

他人が先生に大声で叱られると、見ている自分がつらくなる。

友達のちょっとした言動から、裏の気持ちを読む。

嫌われるのが怖くて、嫌でも断ることができない。

などなど。

 

 

そもそも学校は、刺激が多すぎて居心地が悪い場所なのだ。

それでもHSCは真面目なので、がんばってしまう。

みんな同じにしているのに、我慢できない自分はダメだと思っている。

他の人もストレスフルな学校生活に耐えているのだから、自分も当然、と。

頑張って頑張って、我慢して我慢して、どこかでコップから水が溢れる。

 

 

不登校のきっかけは些細なことが多い。

もう、こんなことで?というレベル。

その出来事が最後の引き金を引いただけで、本質は限界まで我慢してきたことなのだ。

 

 

しかし、親や先生はそれに気づかない。

些細なトラブルから不登校になったと考える。

トラブルを解決する、でも登校しない。

こんな小さなことで不登校になるなんて、根性がないとか、甘えているとか本人を責める。

本人は、みんなと同じにちゃんと出来ない自分も、分かってくれない大人も、両方ダメダメに思っている。

 

 

もともと不安が強いタイプなのに、『不登校』なんて不安で不安でたまらない。

でも、どうしたらいいかわからない。

自分を責めて、周囲を責めて、どうしようもなくて自律神経を乱し、朝起きられないとかお腹が痛いとか、身体症状を訴え始める。

これを『起立性調節障害』という。

 

 

このような患者さんはとても多い。

発達障害でない不登校児は、ほぼ全員がこのHSCだとする意見もある。

実際に話してみると、本人はとても『いい子』という印象を受ける。

 

いい子すぎるのだ。

いい子すぎて疲れる。

 

打破するには、その子の持つ繊細さ、過敏さを知り、認めること。

本人も、周囲の大人も。

その上で本人は自分を肯定し、

周囲はありのままのその子を受け入れるしかない。

これにはかなりの時間を要する。

覚悟を持って不登校と、そして目の前のお子さんという人物と、向き合ってほしい。

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