発達障害

苦手は苦手のままでいい? 将来困らない?

前回の話から。

苦手な仕事はやっぱり苦手 〜苦手なことを把握する〜みなさん、コロナウイルスのワクチン打ちました? 僕は打っても打たなくてもいいと思っているので、どっちでもいいんだけど。 ...

 

こんなコメントをいただいた。(抜粋、改変しました)

ひとつの仕事の中でも『得意でやりたいこと『苦手でやりたくないこと』がセットになっている場合、かなりあると思います。『得意でやりたいこと』だけどんどんやりこんでいて『苦手でやりたくないこと』をガンガン先伸ばし、または逃げ出されてしまうと、仕事としてはかなり…一緒にやっているチームメンバーが大変だったりします。

同僚の『得意なことはやりこむの大好き、苦手なことは先のばしか、放置。』で毎日のように悩み苦しみ、正直、怒りを覚えることもしばしばで…。わたしが修行が足りないだけかもなのですが、子どもの発達に悩む親として今回の記事に深く共感しつつ、件の同僚を思い浮かべ、改めて『自分が社会の側に立ったとき、その有り様を肯定的に受け止められるか』考え込んだ次第です。

 

コメントありがとうございます。

 

いやー、実はですね。

このコメントは来ると思っていて。

 

だって、そこ、気になるもん。

 

コメント待ちだった感すらある。

なので、ホントありがとうございます!

 

余談ですが、このコメントをくれた方、なんて礼儀正しいのでしょう。

このような書き方で嫌な思いをする人なんているのでしょうか。

本文の内容を踏まえつつ、矛盾点を理論的に展開し、現実世界に落とし込もうとしていらっしゃる。

このような建設的なコメントは、僕はとても嬉しいのです。

 

大人になってから困る?

苦手なことは逃げてもいいんじゃない?

という提案に、必ずセットになって出てくる心配。

それじゃ後で困るんじゃない?

 

非常にわかる。

母
 子供の時分にできないことを、社会に出てからちゃんとやれるの?

上記の困った同僚さんのようにならないために、今から穴を無くすべく奮闘するのが親の役割では?

ってことね。

 

わかる。

わかります。

 

でもね。

これについて、僕は違う視点を提示したい。

 

 

まず、件の同僚さん。

多分発達障害ですよね。(あ、今は「神経発達症」って言うんだけど、ここではわかりやすく「発達障害」って書くね)

必要なことでも先延ばしして、逃げてしまう。

発達特性により、周囲が困っちゃってるわけ。

会った事ないし全然知らないけど、まんま発達障害だ。

 

僕ね、この人の何が悪いって、自分の特性を把握せずその会社に就職しちゃったことだと思うんだ。

 

特性が悪いんじゃない。(持って生まれたものだし)

きっとこの人にも悪気はない。(多分、やらかしてることに気づいていない)

 

悪いのは、出来ない仕事を引き受けちゃったことでしょう。

自分の特性に気づいてないから引き受けちゃったのよね。

 

仕事と能力とのミスマッチ。

これによる不幸だ。

 

本人が自覚しないと意味がない

僕は小児科医なので、今こうなっちゃってる人にどう対応するべきかは知らない。

僕から言えるのは、このような不幸を生み出さないために、子どもの時分に取れる行動だ。

 

はっきり言っておきたいのは、

「この人が自分の特性を把握していれば、違った仕事選びができたのではないか」

ってこと。

うっかり今の会社に入っちゃったとしても、自分の特性を知っていれば「アレ? なんか違う?」と気づいて転職という選択肢が浮上しただろうし。

 

 

この人、きっと子どもの頃からやらかしていた。

その時に、周囲の大人が上手になんとかしちゃったんじゃないかと思うんだ。

 

宿題の例で言うと、本人はやる気ゼロなのに、親御さんがお尻を叩いてとにかく提出させて事なきを得ちゃってたとか。

理解していないのに、大人がお膳立てして形だけやらせ、オッケー! ってなってたとか。

結果、本人はさほど困らずここまで来たんじゃないかと予想する。

 

その場はそれでよかったんだと思う。

 

母
 苦手なことも、頑張ってやらせました。

しつけや訓練、やりました。

 

大人は安心する。

 

それなりに形にして、進学、就職もなんとかなった。

でも、本人的には何も身についていなかった。

そればかりか、「自分に問題がある」と気づく機会すら失ってしまった。

その行く末が、『会社の困った同僚』なんだと思う。

 

 

このストーリーが最も不幸なんじゃないかと、僕は思うんだ。

できないならできないってちゃんと自覚させてあげてほしかった。

その上で、

  1. できないから避ける
  2. できないから工夫する

この二択を、「本人に」させる経験を積んでほしかったと思う。

 

苦手は苦手。

そのまま、ありのまま受け入れるのが出発点。

 

その上で、どーしても無理なら避ければいいし。

多分、上記の同僚さんはこのレベル。

 

そこまででもない場合、「苦手だから人一倍気をつけよう」と工夫して穴を作らないようにするという選択肢もある。

そしてこれが、発達障害全般における、基本的な対応だ。

特性を把握し、工夫してカバーする。

 

 

コメントの方がおっしゃる通り、『好き・得意』なことをするためには、『嫌い・苦手』な作業がくっついてくることがままある。

その時に、「苦手だけど、工夫して頑張ろう」と思えればいいわけ。

 

苦手といえど、ゼロではないことが多い。

僕の九九みたいに、得意じゃないけど何とか形になるレベルも多いだろう。

これを積極的に使う必要はないけど、必要になっちゃったらその時だけ頑張るわけよ。

普段の診察を続けたいから、苦手な問診当番もなんとか乗り切るわけ。

 

苦手イコールゼロって、そんな極端に考えなくてもいいと思う。

工夫して乗り切れることはたくさんある。

本人が「いっちょがんばるか」と思えればなんとかなる場面は多い。

 

必要になったらやる

でね。

これを考えるときに、僕が声を大にして言いたい事。

 

その時やればいいよ!!!

 

僕の問診当番は、今目の前にその仕事があって、僕がやらなきゃいけないからやった。

苦手だけど、納得してやった。

「問診が嫌だから病院辞めまーす」ってしないのは、通常運行の診療業務が好きだから。

天秤にかけ、年に数回の苦手な仕事(問診当番)を引き受けたわけだ。

 

自分で理解し、納得してやってる。

だから前の記事に書いたとおり、「社会の歯車の自分もカワイイ☆」って思うわけ。

 

 

これを、必要が全然ないのに根性をつけるためとかいって強制されたり、ましてや小学生の頃に「将来のために、ニコニコ、テキパキ、素早く正確に問診をとる練習をし、得意になっておきましょう(ニッコリ)」とかやられたら発狂すると思う。

つまり、「必要に駆られて、自分で納得している」から頑張れるわけだ。

 

必要も納得もないのに根性でただ頑張れって、昭和か?

今は令和ぞ?

僕はコスパ厨で、しかも平成生まれぞ?(あ、サバ読んだ!)

 

 

発達障害特性を持つ僕から言わせてもらうと、納得とか理解って超大事!

 

「特性のせいでー(テヘペロ)」で何でも片付ける気はない。

僕だって、社会が僕を特別扱いしないことくらいわかってる。

 

だからこそ、「自分で」特性を理解し、「自分で」仕事を選び、「自分で」状況を把握し、「自分で」苦手なことにトライする決心をしたい。

だって、社会では親や先生は先回りしてくれないじゃん。

「◯日までに提出よ、そろそろ取り掛かりなさい!」とか教えてくれないじゃん。

 

自分で先を見通して、

  1. うまく避けるか、
  2. 工夫して克服するか、

選ぶしかないわけ。

 

親の不安と子の不安

親御さんがお子さんの様子を見て、

 

母
 苦手を苦手のまま放置したら将来困るのでは?

 

と心配する気持ちはわかる。

非常にわかる。

 

でもそれは、親御さんの課題だ。

「このままじゃヤバいんじゃ?」と思っているのは親御さんで、本人は全然気づいてないわけ。

良い悪いは別にして、本人は全然不安じゃない。

 

不安なのは誰?

そう、親御さんだ。

 

 

ここを分けて考える必要があるように思う。

お尻を叩いてなんとか形にしたところで、「安心」するのは親御さんだ。

穴をなくそうとお尻を叩くんだけど、それじゃ穴はなくならないわけ。

本人は穴に気づいてないからね。

※もちろん、本人も自覚した上で訓練して成功体験を積むことには非常に意味がある。もちろんです。

※あとお尻とか穴の話ばっかりして、なんかごめんなさい。そういうつもりじゃなかった。悪気はなかった。

 

だったら、苦手を苦手のまま放置し、本人がちゃんと痛い目にあった方が、ずっとよい。

本人が「これじゃ困る」と思わないことには、何も出発しない。

問題意識がインストールされないことには、解決策が出てくるはずがないのだ。

 

まず、「自分はこれが苦手なのだ」と認識するところから全ては始まる。

上記同僚さんは、このスタート地点にすら立っていないことによる悲劇だと思う。

※ここで注意してほしいのが、「アンタこれ苦手だよ、できないよ」と呪いの言葉をかけないでやってほしい。親御さんのこの手の言葉は、子どもの心に深く刻み込まれる。「これはできない、ダメなんだ」とそのまま素直に信じ込むお子さんも多い。自尊心を折らないように、上手に「ありのままの自分」を認識させてあげてほしい。難しいけど。

 

 

って事で僕は、苦手は苦手でよいと思っている。

子どもの頃に、自分の持つカードをよく見極めていると、あとが強い。

強い手札を揃えようと奮闘するより、持って生まれた手札をどう使うかのほうがゲームの行方を左右すると僕は思っている。

POSTED COMMENT

  1. すずらん より:

    先生のブログが夏休み疲れの母にいつも癒しになっています。宿題シリーズからすごく救われてました…

    我が家の小4の息子、ADHD+LD(ディスレクシア)の診断済み。
    不登校、今はなんとか通ってますが基本毎日登校しぶり。

    夏休みの宿題はもちろん得意の後回し(笑)
    ただ1学期の学校のドリルは終業式までに終わらないと補習になるので毎回終業式まギリギリで間に合わせております。
    どこにやる気スイッチがあるのか分かりませんが、スイッチ入るとすごい勢いでやりだします。過集中のすごさを毎回見せつけられます。

    今、息子が好きなことは
    野球、釣り、ピアノ、薪割り、けん玉!
    と学校には何も役にはたちそうもなく(笑)
    ただ彼の好きなことはイコール彼の得意なことでして…

    世の中にデスクワークのサラリーマンしかないなら私も必死に勉強させるかもしれませんが世の中、たくさんの仕事で成り立っているのだから彼の特性に合うものを一緒に探していきたいと思っています。
    そして残念ながら合わなければまた探せばいいんですよね。

    息子の夢は今はプロ野球選手。
    もちろんなれたら最高だけど、得意の漁師や木こりもいいんじゃない…と。

    今、勉強や宿題をみんなと同じようにやらせなくて不安なのはきっと母の私だけです。
    だからお尻を叩いて無理にやらせてつじつまを合わせても息子の将来には何の役にもたたないことをいつも忘れないで母は余裕を持って生活したいです。

  2. しのぶ より:

    今回もとても興味深い記事をありがとうございます!
    苦手は苦手〜の先生の記事に納得からの、読者さんのコメントにハッとする、からの、今回記事にハッとする…と、素晴らしく勉強になりました)^o^(
    読者さんのお返事コメも。
    『先延ばししても、いずれ〜声を掛けてくれる』の発想に対し、本来はこれも困った点ではないはず、とおっしゃるところに徳の高さを感じます。普段少なからず負担をかけられているにも関わらず、それとこれとを別に考えられるのですね。同僚さんのことも客観視して理解していらっしゃる…。
    我が子はまだ幼く私もおそらくP先生と同じくらい?ですが、私も「もしいま私に何かあったたらこの子の未来は」とよく思います。
    この世で一番幸せなのは、明日目覚めるのが楽しみな人、とどこかで聞いてから、子供達ができるだけ多くの日をそう思って過ごせればそれが一番なんだ、というのを根っこにして、様々な不安に一呼吸おいてます。
    そしてP先生のブログに出会ってからは、自分のことも大事に、と思うようになりました。
    いつもありがとうございます。

  3. ぜむ より:

    今回も記事を拝読致しました。場違いかも、と悩みつつ挙げた問いでしたので、取りあげて頂き驚き&嬉しく、御礼申し上げます。
     先生の今回のお話のなかで『それは親の問題』という御指摘に、正直どきりとしました。超高齢出産のためか、殊更に若いお母様方と自分を比べ『何かあったときに支援基地として機能させてもらえる残り時間はどれくらいだろう』と考えてしまっているんだと思います。確かに、この問題について子ども視点に立てば、ママの年齢や平均寿命なんて関係無いですね(笑)。発達に遅れがあっても其々のペースで変化していくわけですから、心配しつつも子の持つ(持ってたらいな)底力みたいなものを、もっと信じてみようと思いました。
    件の同僚については『先延ばししても、いずれ誰かがフォローしてくれる。〆切を意識し忘れても、心配している周囲が声をかけてくる』が成功体験として無意識に身に付いている節があり、これも本来は困った点ではない筈なのに、困ったなぁ、になってます。子どもについては親の対面や満足もあるかと思いますが、仕事においては対個人ではなく、チームや自社に対する評価・クレームに直結するので、なんか危ないと解ったら放置はできないからです。
    仰るとおり、悪意等はなく、むしろ人柄のよさは皆が認めています。得意分野へののめり込みも、力を発揮できる所で他の点の挽回を試みているんだろうなと感じることもあるので…。ただ、改めて今回の記事を拝読し、『あの人には出来ない』『気を付けないとマズイ』という自分の視点が、必要以上に狭まって来ているのかもしれないと反省しました。そんな目で、子どもを見てしまうようには成りたくないです。
    中々自分だけでは出来なかった視点からのご意見、重ねて御礼申し上げます。

  4. 雨のち晴れ より:

    いつも先生のブログを楽しみにしています。
    私の子供は小学四年生で不登校になって半年です。ASD、ADHDと診断されています。

    穏やかで真面目で知的好奇心も強く、学校では何の問題もなく過ごしていると、担任の先生からも聞いていました。
    ただ不登校になった後本人から「書く」ことがとてもしんどかったと教えてもらいました。
    頭の回転は速いのに書こうにも字が中々浮かんでこなかったりするようでした。常に100%以上の力を出していたようで家に帰るとグッタリしていました。
    大人数がしんどい、慣れない友達とのコミュニケーションもしんどい、書く事もしんどい中でずっと頑張っていました。そして糸が切れたように不登校になりました。
    不登校になってから押入れに引きこもって、動画三昧の日々でした。私も子供の事を受け入れてからは干渉を辞めました。すると少しずつ元気になり、今ではこのクソ暑い日でもサイクリングしたり散歩したり(付き添いします、一人は不安なようです。)明るくなりました。
    学校へはまだ行く気持ちはないようですし、私はこの子を見て学校は合わないだろうな、と考えています。ゆっくり本人が決めたらいいと思っていますが、月一度児童精神科の診察があり、その度にデイサービス、もしくは学校に週一回からでも通っては?と外部との関わりをすすめられます。子供はこの提案をスルーしています。
    通院を辞めたいのですがスクールカウンセラーさんには繋がっていた方がいいと言われています。

    今はまだ充電中でそこまでの力は溜まってないと私は子供を見て思うのですが、先生から言われると揺らいでしまいます。
    そんな時、こちらのブログを見て揺らいだ感情を立て直しています。いつもありがとうございます。
    この夏休みに子供が書く事はしんどいから、パソコンしよう、とタイピングをやり始めましました。
    とはいえ一週間に一度くらいですが。
    でもその姿を見て本人も今のままではいい、とは思ってないのだな、と思いました。
    まずは親として、親の不安は親で解決して
    子供にはしっかり充電できる環境を整えたいと強く思いました。
    いつもありがとうございます!!

  5. だんごはおいしい より:

    こんばんは!

    苦手な事は工夫して乗り切ればいい、
    たしかにそう思います。
    自分も長年生きてきて、最近できないものはできないな、と。
    そう思っています。
    自分の子にはなんでもできるスーパーマンになって欲しい、自分は努力が足りなかったからできなかった。自分と同じようになってほしくないから頑張ればなんとかなるはず。
    と色々と勘違いしていたなあ、と今になって思います。
    でも、私はできない事は助けを求めれば代わりにやってくれる人もいるし、どうにかなるし、今までそうして生きてきたなあ…と我が子と付き合ううちにそういう気持ちに至りました。
    「苦手は克服しろ!努力でなんとかなる!!」と我が子に厳しくしてきましたが、じゃあ自分はどうなのか??
    克服してねぇ!!です。

    ただ、苦手を工夫して乗り切るって考えにちゃんと至るのだろうか?とそこは心配です。

  6. 匿名 より:

    苦手は苦手のままで、そう思っても、学校が担任がそこが出来ていないことで困っている、またはそう言われてしまうと、そのままというわけにもいかないし、なんとかやれることはして形にしなくては、親の役目ですよと言われているように感じています。
    親なんだから、責任もって出来ますよね、というような圧力感じます。
    難しいです。

  7. にもちー より:

    自分を知って、うまく(できるだけ)やり過ごす手だてを一緒に考える。時にはほぼ手を貸して。でもそれがダメなことは子どもも理解しているし、何年か経ったらちょっとできるようになっていたり。親の手助けも本人が一緒に見ていれば「まねっこ」ができたりする。そんな日がまた来るかも?と、今年の夏も宿題の手伝いをやっています(笑)

  8. かわ より:

    現在中3の息子。不登校になって一年経過しました。
    息子も私も安定した生活が出来るようになり、不登校のお母さん方と話す機会もあります。
    しかし、皆さん何かしらの障害があり息子の障害を聞かれたりする事も。
    もちろん、精神や発達を疑った時期もありますが…。
    障害がベースにある不登校。
    見極めが難しい。

  9. なお より:

    現在中3の息子。不登校になって一年経過しました。
    息子も私も安定した生活が出来るようになり、不登校のお母さん方と話す機会もあります。
    しかし、皆さん何かしらの障害があり息子の障害を聞かれたりする事も。
    もちろん、精神や発達を疑った時期もありますが…。
    障害がベースにある不登校。
    見極めが難しい。

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