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羅針盤の作り方

母
ママ友から「そういうときは〇〇すればいい」って聞きましたがどう思いますか?

 

母
知人が無理やりでも〇〇させないとダメって。

お母さんが諦めちゃダメだって言うんですけど。

 

よそのお宅の体験談。

口コミで聞いたり、知人に言われたり、ネットで調べたり。

「こうしたらうまくいきました!」という成功談を耳にする。

このような情報とどう付き合いますか?

 

医者の視点と患者の視点

こころや発達の分野に関わらず、医者と患者の視点で大きなズレを感じることがある。

その病気や状況を見る、立ち位置というか規模の違いだ。

 

患者の視点

患者さんは、誰か特定の人に有効だった治療を大きく捉えることが多い。

 

「この病気にこの治療をしたら良くなったと友人が」

「友人の子供はこのサプリをとったら身長が伸びたそうです」

「以前風邪をひいたときに抗生物質を飲んだらすぐによくなったので、またください」

 

身近な人や有名人に効果があれば、その治療や対策は効果絶大だと信じる。

なので同じことをやってほしいと望む。

 

医者の視点

でも医者は、その情報を意に介さないことが多い。

『n=1』ってヤツ。エヌイコールイチと読む。

「一人の人がそうだった」って意味で、これは統計学的に意味を持たない。

医療はサイエンスなので、一人そういう人がいたからといって治療方針の決定には反映されないのだ。

 

その行動(治療など)をした数人がみんな良くなっても、その行動が病気に効果があるとは言い切れない。

その治療が有効だと判断するにはたくさんの人(数百人単位)で色々アレして調べる必要があって、超大変なんです。

 

 

そんな感覚が身についているので、僕たち医者は患者さんが持ってくる「あの子はこれで治ったって」的な情報を軽くあしらってしまいがち。

患者さんからすると、多大なる期待を寄せて、満を持して提示した情報を、見向きもされず一蹴される。

いらっとするでしょう。

医療不信につながる。

よくある状況なので、僕自身すごく気をつけるようにしている。

 

こころ・発達の分野

で。

医学ってサイエンスなんだけど、こころや発達の分野はこのサイエンスが通用しにくい。

 

ケースバイケース

病気だと治療法がちゃんとあって、どんなときにどう治療するかのガイドラインがあったり。

でも、発達障害とか不登校とか思春期とか、ガイドライン、ない。

作ったとしても、それではうまくいかない人が多発することは想像に難くない。

性格や環境や親の考え方とかベースの気質とか発達障害の有無とか知的な程度とか、様々な因子が複雑に絡まってくるからだ。

 

しかも表面的な状態(例えば不登校)は同じでも、どこを目指してどんな風になったらゴールかも、人による。

病気なら「病気が治ったとき、またはコントロールしながら共存できること」がゴールなんだけど、この分野ではその定義もあいまい。

基本的に『ケースバイケース』、その子をしっかり見てあげてくださいって話になるんだけど。

 

羅針盤が欲しい!

でも。

それにしたって漠然としすぎない?

太平洋にイカダで漕ぎ出す感じじゃない?

ちょっと指針とか、目標とかあってもよくない?

 

ってことでみなさん口コミとか体験談とか調べるんだと思う。

僕でもそうするし。

だからn=1の意見が横行しがち。

「〇〇したら治ったって!」という情報に飛びつきがち。

でもそれじゃうまく行かなくて、どうしたらいいか途方に暮れてしまう。

 

やっぱり、指針が必要だと思う。

作ろう、ガイドライン。

でもみんなに合うガイドラインは作れないから、その子にあったオーダーメイドの『羅針盤』を作ろう!

 

マクロの視点

羅針盤を考えるとき、絶対に外せないのがマクロの視点。

マクロって、俯瞰して見る、大きく見るってこと。

 

病気の治療が効くかどうかは超たくさんの人で調べる必要があるって書いたけど、その原則はこの分野でも同じ。

知的にどの程度だと、どのくらいのことが出来てどんなことに困るのか。

発達障害なら、その疾患の他の人はどんな風に生活していることが多い?

不登校の一般的な予後は?

同じ疾患(「ASD」とか「不登校」とかそういうの)の人たち、多くはどんなことで困って、どんな風に感じている?

じゃあどんな声かけをされると嬉しくて、逆にどんな声かけは嫌?

どんな経過を辿って社会に出ることが多いの?

 

 

大きく捉える。

〇〇って一般的にこう」という知識を持つことは外せないと思う。

自力で情報収集するのは難しいと思うので、本や医者や保健師やその他専門の人など、上手に活用してほしい。

 

ミクロの視点

その上で、ミクロの視点。

ミクロって小さいってこと。その子個人をよく見るってこと。

医者はこっちをおろそかにしやすいので、お母さんがよく見てあげてほしい。

 

大きな括りを見据えた上で、じゃあこの子ってどんなもん?

発達特性は濃い方? 薄い方?

どんな部分が目立つ? 何が困る?

例えばASDの中でも、「この子はパニックやかんしゃくはほとんどないけど、コミュニケーションがとりづらいのが困る」とか。

不登校でも「本音は学校に行きたくないのに、行かなきゃという気持ちが強すぎて自分で首を絞めている」とか。

「ベースにHSCがある」とか。

 

一般的な病気と比較し、発達やこころの分野では、このミクロの視点の重要度が大きい。

身体の病気だと、その病気なら多くの人が同じような経過を辿り、ゴールも同じ。

例外は少ない。

 

でもこの分野はほぼ全員が例外

 

だからこそ、どんな部分がどう例外なのかを見極める必要がある。

身体の病気みたいに「治療方法は先生にお任せします」とかありえないわけだ。

 

答え合わせ

そしてそれを見極めるために、「答えあわせ」が必須となる。

身体の病気なら採血とか画像とかで治療効果を確認すると思う。

心の分野では、本人に聞く。

身体の病気は大体の経過が予測できるけど、心の分野は想定外が起きることが想定内なので(ややこしい)、特に注意して「答えあわせ」する必要があると思う。

「親はこう思ったけど本人の中では全然違う!」ってこと、めっちゃある。

答えは本人の中にしかない。

 

羅針盤3点セット

マクロの視点とミクロの視点、そして本人の考え。

この3点がないと、じゃあこの子にどうしようという方針が立たない。

大海原をイカダで漂っているようなものだ。

 

  1. 一般的にはこう (マクロの視点)
  2. でもこの子はこう (ミクロの視点)
  3. そして本人はこう言っている (答えあわせ)

この3点セットを羅針盤にしてほしい。

 

 

で、最初の話題。

よそのお宅の体験談とどう付き合うか?

 

もうお分かりですよね。

そのまま鵜呑みにするのは絶対に避けてほしい。

状況があまりに違うから。

 

ケースによる差がとにかく大きい分野だ。

  1. 一般的にはこう
  2. でもこの子はこう
  3. そして本人はこう言っている

この3点と照らし合わせ、我が子に合いそうなら取り入れていいと思う。

でも少しでも合わなければそのまま取り入れるのはすごーく危険だ。

大海原で、風の吹くままに漕ぎ進めるようなものだ。

遭難する気しかしない。

 

  1. 一般的にはこう
  2. でもこの子はこう
  3. そして本人はこう言っている

この3点を、まずは親御さんの中で確立すること。

すべてはそこからだ。

 

そしてこれを理解していただけると、ママ友とか身近な人に体験談を聞くメリットがほぼないことに気づくと思う。

だって状況が違いすぎるから。

たまたまぴったり合う可能性は、極めて低い。

話を聞いて、どこは取り入れてどこを捨てるか、取捨選択することが大事。超大事!

それが親御さんの腕の見せ所。

 

  1. 一般的にはこう
  2. でもこの子はこう
  3. そして本人はこう言っている

まずはこの3点を確固たるものにしないと、誰のどんな意見を聞いても振り回されるだけだと思う。

まずはここをお願いします。

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