僕の外来では、基本的に親子別々で話を聞く。
親の前では言いづらい、または子に聞かれたくない話があるからだ。
そうすると、親子で結構なズレがあることに気づく。
そしてお互い、伝わっていないことに気づいていない。
今日はそんな話。
隠れて遊ぶと、ウチの子と遊ばないで、ってお母さんが友達に言ってたらしい。
そのうち誰にも誘われなくなった。
普通誘われるじゃないですか、でもあの子は全然なくて。
時間を埋めるために塾に通わせました。
いやー。
ずれてるね。
盛大にずれてる。
なぜこうなったのか、僕にはわからない。
でも両者とも、友達と遊ばなかったのは 親のせい/子のせい と思っている。
そしてそう思っていることを、お互いに知らない。
別のケース。
今は進路のことは言わないでって何度も言ってるのに!
進路の話? 私からは出しません。
子供がキレたのでつられて私もヒートアップしてしまい、そこから進路の話になりました。
ずれてるねー。
ずれてるずれてる。
こういうことはよくある。
同一の出来事に対して、親子で解釈が異なる。
なのに自分の解釈を共有しているとお互いが思っている。
どちらの立場も、それが真実なら納得のいく内容だろう。
「その人の中では」筋が通っている。
ではどちらが正しくて、どちらが嘘か。
受診時の様子を見て、なんとなーくこっちがホントでこっちは思い違いかな、というのは見えても、絶対にこっちが正しい! とは断言できない。
僕は見てないし。
それなら、どっちが正しいのかしら。
色々考えたけれど、僕の結論は、
『どっちも真実。その人の中では。』
人は、見たいものしか見ない習性がある。
知りたい情報だけ集める。
自分の筋書きに矛盾ない情報ばかり集めて、やっぱりこうだと確信を深める。
これは故意ではなく、無意識に行なっている。
経験ないですか?
そんなつもりで言ったんじゃないのに、突飛な解釈をされたこと。
あの状況でそう理解したの? マジで⁉︎ みたいなこと。
確認するとびっくりするけど、わざわざ確認しなければ相手の中では間違った解釈のまま保存される。
修正しようがない。
で。
親子間、ずれてますよって話。
いやマジでずれてますよ。
言わないと伝わらない。
お互いどう思っているか、確認しないと分からない。
「前にあんなことがあったよね。私根に持ってる!」
言わないと多分、相手は忘れている。
とぼけているのではなく、本気で忘れている。
そんなことあった? 忘れたわー。程度のノリ。
ずれてます。
本当にもったいない。
コミュニケーションさえ取れれば、お互いだいぶ楽になるのになぁと思うことはよくある。
自分には夢があるのに、お母さんに言ってもどうせ否定されるだけだから言えない。
あの子が自立できればそれでいいんです。どんな学歴でも、職業でも。
でもあの子、のほほんとして何も考えてないから心配で心配で。
せめて勉強を頑張って間口を広げてくれたらと思って。
ずれてる。
ずれすぎて、もったいないおばけが出るかと思った。
せっかく僕が間に入ったので、やんわりと伝えてみる。
案外そうでもないみたいですよ、結構考えてるみたいなんで本人に聞いてみてください、と。
返事は大抵、
「そんなわけない! だってあの時も○○って言って、こんな行動したし……」
と、自分の考えに適合する過去を持ち出し、それを根拠に僕の発言を否定する形。
いや「ちゃんと考えてる」って、ついさっき! ここで! 本人が! 言ってたのに。
もったいないおばけが100体くらい出るかと思った。
話をしてください。
できればまず、親御さんがお子さんの話を聞いてください。
大人なので、大人から先に。
余談だが、兄弟で予防接種に来たとき、僕は大きい子から先に注射を打ちます。
お子さん、色々考えています。
そして自分の意見があなたに伝わっていると思っていますよ。
伝わった上で否定するひどい親、と思ってます。
全っっっ然伝わってないと教えてあげてください。
その上で、お子さんの話をもう一度最初から聞いてあげてください。
途中で口を挟まず。
親御さんが思っていた解釈と全然違って、目から鱗がポロポロ落ちると思います。
親御さんに話を聞いてもらうと、子供も話を聞けるようになります。
親としての譲れない部分、もう一度説明してあげてください。
今まであんなに小言を言ってきたのに、全っっっ然伝わってなくて愕然とすると思います。
お互い冷静に、敢えて最初の最初、根本や前提から順を追って確認してみてはいかがでしょうか。
もったいないおばけ、おばけの国に帰りました?