発達障害

答えられない質問って、こんなの。

外来では、基本的に患者さんの「困りごと」を聞いている。

 

母
前回受診後に、こんなトラブルがありました。

どう対応すれば?

 

医学的な観点から、トラブルの理由を推測し、対処法を考える。

(もちろん、よく分からないことも多いんだけど。)

 

その中で、それなりの割合で僕には答えられない質問があるのだ。

それってどんな質問?

 

答えられない質問

外来では、学校で起きたトラブルとか、家庭での困りごとを聞いてるんだけど。

「答えられない質問」がある。

僕にはなんて言ったらいいかわからない。

答えられない。

 

例えばこんな質問。

 

母
公園で、みんなで木登りしてたんです。

大勢でやっていたのにこの子だけ叱られて。

 

ADHDっ気のあるこの子。

特に目立っちゃったのでしょうね。

代表で怒られちゃった。

 

母
あとでなんでオレだけ!って荒れて。

大変でした。

 

あぁ、目に浮かぶようです。

理屈っぽいこの子が、理不尽に自分だけ叱られる……。

 

母
こんなとき、どう対応すればよいですか?

 

これが、「僕の答えられない質問」の例。

 

  • 何が悪かった?
  • どう声かけすればいい?
  • また同じようなことが起きた時に備えて出来ることは?

 

ゴメン、わからねぇ。

答えられない。

 

 

もうさ、事故じゃん。

たまたま一人だけ叱られちゃった。

 

そしてたまたま、この子は不平等とか理不尽とかが大嫌い。

もちろん理屈っぽい子なので、公園で木登りしちゃダメってことは理解しただろう。

でも、なんでオレだけ⁉︎ みんなやってたのに! という理不尽には上手に答えてあげられない。

 

母
最近かなり落ち着いて、トラブルらしいトラブルはなかったんですが。

やっぱりこういうことがあるとヘコみますますね。

 

この親御さん、すごく頑張っている。

お子さんの特性を理解し、受け入れ、工夫している。

普段からよく観察し、適切な声かけをする。

 

本人もとても頑張っている。

もともと賢い子だし、環境調整もありトラブルが激減していたところだった。

 

しょーがない。

もう、事故だよ。

 

僕にはそれしか言えない。

 

ほぼ事故

同様の、「もうそれ事故じゃん」みたいなシチュエーション。

特性から、もう致し方ないよねってトラブル。

これが、僕には答えられない。

答えが分からない、と表現するのが正しいか。

 

結構相談されるんですよ。

例えば、ASDの子。

 

母
急に時間割が変更になって、楽しみにしていた図工がなくなり、代わりに大嫌いな運動会練習になりました。

かんしゃくを起こして学校を飛び出しました。

 

母
よかれと思って、落ち込んでいる友達の頭をいい子いい子しました。

もうそういう年齢じゃないので、相手の子がびっくりしてうちの子を拒絶。

本人は理解できずパニックを起こしました。

 

こんなのとか。

 

 

ADHDの子だと。

 

母
翌日の準備が自分で出来るようになっています。

ですがたまたま塾や家庭の行事が重なり、準備を忘れて寝てしまった日が。

翌日先生に指摘され、自信をなくしたようです。

 

母
友達の手が偶然ぶつかり、瞬間的にキレてしまいました。

 

こんなのも。

 

 

もうさ。

事故だよ。

しょーがない。

 

悪気ないじゃん。

がんばってる。

落ち込む必要ないよ。

忘れたらいいよ。

 

これが、答えられない質問。

僕は困ってしまうのだ。

 

こんな質問をする家庭

こんな質問を聞くと、僕は実感させられる。

 

そーだよなぁ。

大変だけど、どうしようもないよなぁ。

工夫できるところはアドバイスするけど、こりゃ工夫のしようがない。

(細かいことを言えばできるのかもだけど、年齢や状況的にそこまで求めるのは酷だろうと僕は判断する。)

どうしようもないトラブルって、あるよなぁと。

 

そして興味深いことに、このような「答えられない質問」って、特定のご家庭からまとまって出てくる。

それは確かに困っただろうな、でもどうしようもないよな、って質問が、一つのご家庭からいくつも出てくるのだ。

 

「困ったこと」を聞いてアドバイスするのが外来の役目なので、この受診の仕方は非常に正しい。

なのに、僕には役に立つアドバイスができないもどかしさ。

※愚痴を言いたいだけの人を受け止めるのも外来の仕事だけど。でも、建設的というか前向きなのは、このような「困った出来事」の解決策を求める受診の仕方。なんとか役に立ちたいけど、立てない自分がもどかしい。

 

 

「答えられない質問」をしてくる親御さん。

よく見てるのよ。

お子さんをすごくよく観察している。

僕に思いつくような方法は、既に考えてるんだよね。

 

解決できなかったものだけピックアップし、受診時に相談してくれる。

だから「答えられない質問」がいくつも出てくるんだろう。

 

もう、素晴らしいんだよね。

親御さんの考え方と接し方で100点満点。

この親御さんに解決できなかったトラブルは、きっと誰にも解決できないのだろう。

※このような「事故なのでしょーがない事案一覧」を、誰か作ってくれねーかな。

 

 

実際、「答えられない質問」をしてくる親御さんは、お子さんをとてもよく観察し、理解していると感じる。

僕には、完全同意くらいしかやれることがない。

「おっしゃる通りだと思います」を繰り返しているだけっていう。

 

  • よく見てますね。
  • おっしゃる通りです。
  • それはあると思います。
  • 確かに困りますよね。

 

こんな、答えにならない返答を並べてる。

 

それと同時に。

何もできない自分をふがいなく思いつつも、このご家庭は大丈夫だと大きな安心感に包まれる。

このフクザツな感情、理解してもらえるだろうか。

親御さんは「困った」と言っているのに、僕はその困りごとを聞いて「このご家庭は大丈夫だ」と安心する。

僕は安心だけど、患者さんは困ってる。

このアンバランス。

こんなご家庭への有用な言葉がけを、僕はいつも見つけられないでいる。

 

 

いるんですよね、こういう親子。

きっとこれを読んでいる方にも、結構いるんじゃないでしょうか。

コメントを読んでいるとそう思わされる。

その通りだよなぁと思わされる意見、かなり多いと感じる。

 

この病院泣かせ!(いい意味で)

POSTED COMMENT

  1. 匿名 より:

    小2男子の匿名希望のお母様!
    そんな時こそ先生が教えてくださった
    「あなたはそう思うのね」の出番です!!
    私も下2人がASDアスペルガーで不登校です。
    同じ問題にぶつかります!仲間はいます!
    一緒にがんばりましょう

    • 匿名 より:

      匿名様の励まし、とても嬉しかったです!
      仲間はいます!
      心強いです!頑張りましょう!!
      コメントありがとうございました!!

      全国に日々試行錯誤で
      子育てしてるお母様お父様がいる
      事を感じる事で
      孤独感が和らぎます。

      P先生のブログで力をもらい、
      コメントでも力をもらい、
      感謝です!
      これからも楽しみにしています!

  2. 匿名 より:

    答えられない事故的案件に、
    日々ぶち当たってる、
    高機能自閉スペクトラム小2男子の母です。

    息子は抜群の記憶力で、
    矛盾が大嫌い、
    柔軟性ゼロ、納得いかないとブチギレ男子。

    お友達の、小学生あるあるな
    適当な会話、嘘、ズルなどを
    見抜いてしまい、
    怒っています。

    お友達が正しいのかどうかも
    判断できないので
    何とも言えず、共感も出来ません。
    (親が共感すると友達が嘘つき認定
    になってしまう)

    子に寄り添ってあげたいが、
    心を鬼にしてスルー…
    でも「ママはどう思うのか!?」
    と尋問が始まり
    スルーさせてもらえません…

    「お友達がそう言っているなら
    本当なんじゃないかな?信じてあげよう」
    と息子を謝らせてしまう事もあります。
    (大人からみて9割嘘っぽい案件)
    悪い政治家のようだな私、すまない息子…
    と思いながら。。。

    そんな息子はもちろん
    幼稚園退園、完全不登校です。

    お友達と遊ぶ経験を
    積み上げている最中ですが、
    事故が多発している事態です(笑)

  3. 匿名希望 より:

     仕事の本当に難しい部分だけをまとめて先輩に質問してくる、デキル後輩みたいな親御さんですね。お子さんがP先生と直接話せる時間が少しでも長くなる様、お子さんの最近の状態をP先生に報告できる様、極限まで質問を絞ってから来られるのだと思います。

     同意しか得られなくても次回も同じ様な質問をされるというのは、その親御さんがP先生の答えに満足されていると言う事なのでしょうね。

     そしてP先生が安心すると書かれているのは

    ①その親御さんがP先生に相談するために、困った時の出来事を状況も含めて言語化する事で、自分でも客観的に振り返っている。
    ②P先生の同意の答えで、自分はその時もっとふさわしい他の言動ができたのではないかと言う事を否定できて、答え合わせをして前に進んでいる。
    ③医師に対してこんな風に答え合わせをすると言う事は、おそらく普段の子供の言動からも、自分の言動がふさわしかったかどうかの答え合わせをしているだろう。

     結果はどうあれ、出来る事はやってるよね、みたいな感じの方が結構いらっしゃるからかなと考えました。2020時7月の過去ブログに「答え合わせしてください」って書かれていましたよね。

     ただ、親御さんが、目の前のこの人に他に答えがないなら、本当に仕方がない、他にいい方法は無かったのだろうと思えるには、それなりの信頼とキッカケが必要。
     それは、診察を受ける前後のお子さんの様子かも知れないし、P先生が以前に話された言葉かも知れません。

     P先生のブログの中の言葉が、私が考えている時に頭に浮かぶ様になったのは、ブログを読んでいる内にジワジワって感じです。時折面白い冗談も取り混ぜて、和ませながら繰り返し語られるのは、一冊の本にするためにあれこれ削らないといけない本とは違う、ブログの強みですね。P先生お一人から多数の会ったこともない人達へまとめてのアドバイスなので、盲信はしませんが、P先生のブログを読んでおいてよかった、と思う事はよくあります。

  4. かおりんご より:

    P先生
    こんにちは。この記事、5回ぐらい読みました。以前の記事に
    「こうあるべき」が強すぎる人は、悩みやすい気がする。
    このタイプの人に、どうすれば「いい」?
    と質問される事が多い。
    と書かれていたことがありました。

    こうあるべき!!
    とまではいかずとも、もっといい方法や声掛けはできなかったか…とか。
    いろんなシチュエーションがある中で、この時はどうするのが最善だったのか…
    と、支援級の先生や臨床心理の先生に聞いていました。
    でも、お母さんは心配しすぎ。
    大丈夫。
    勉強のしすぎも知識は増えるけど、いいことばっかりじゃないよ。
    と言われたり、
    お母さんは、そんなにお子さんを障害者にしたいんですか?
    と言われ、1ヶ月ぐらい再起不能になっていました。
    やっぱり親だから、どうにか少しでもいい方向にと、
    どうしたらいいですか?
    って聞きたくなっちゃいます。

  5. ぎん より:

    先生もこんな風に考えてらっしゃるのか〜といつも楽しく拝見してます。
    うちの子は小1ですが、少し活発で、イタズラ好きで、他のお子さんに迷惑を何度もかけてて、アトピーもひどく、血が出た時に自分で処置できないので、先生からも遠回しにイヤミを言われる位です。
    子供は学校は嫌いでは無いですが、周りからは好かれていないようですし
    私も疲れたので、自主休校を考えてます。
    オンラインで出席扱いになるようなので、学校に相談してみます。

  6. 迷える母羊 より:

    医者が保護者の言葉に安心しるように、保護者が主治医の言葉に安心するパターンもあります。

    1年前、問題発覚して児童精神科(児童精神科、精神科、心療内科のある精神科病院)に入院が初診という衝撃的なデビューをした当時の主治医の言葉には不安しかありませんでした。
    誕生日に入院させたくない気持ちは理解されなかった。
    治療方針が立てられないとお叱りを受けました。

    主治医が変更となった今年は、2ヶ月以上の予定で入院したので、誕生日までに退院出来ないだろうと外泊の依頼を出したら、その日が誕生日なら、誕生日前日を退院予定にしようと提案されました。(2ヶ月と1日になる。)

    面談で話をしていても、息子の事をちゃんと見ていてくれる。母の事を心配してくれているのが伝わります。

    どれくらい褒めてますか?
    褒められると照れ臭そうに笑顔になるんですよ。

    低レベルで褒めると逆に怒られることもあり、褒める内容を選ぶのが難しいと感じていました。

    褒められて怒るのは長続きしないから、褒めてあげて。

    ハッとしたのと同時に、この主治医なら信頼して全てを任せられる。と思いました。

  7. 匿名 より:

    10月半ばが底辺だったうちの5年生ASDの息子、パニックから大暴れで、連日2時間絡まれ罵倒される、しまいには壁に穴を開ける、興奮しすぎて過呼吸起こしそうな日々が続き、子どもなんでも相談的なところに初めてお電話しました。でも返ってきた返答が気分の切替でお散歩に誘いましょうとか、好きなおやつで一息入れましょうとか、一旦落ち着くまで離れましょうとか、もぅそれはしたけど無理だったから助けを求めてるのにそんなのでガッカリした記憶がありますが、逆を言うと、私はちゃんと見てあげてるってことなんですかね… そう思えば少し救われます。
    知的障害はなく、外に出ればそれなりに振る舞える息子、だもんで不登校になってASDに気づきました。ギリギリchop辛いですね。教室にはいられないけど、特別支援級はプライドが許さない、フリースクールなんて環境が変わるから断固拒否、目の前のことが全てなので1年経ちますが動き出す気配がありません… ふぅー

  8. しのぶ より:

    なるほど。だいたいそういう事故的なことがメイン相談に上がってくるご家庭は大丈夫っぽいんですね〜。

    事故的な事への対応…うーん、
    図解!
    でどうでしょう?
    分かってほしい人がそこまで一緒に考えてくれて、図なら、ここ!ここが理不尽だったんだよ〜(ToT)
    と共感し合えて落ち着く。と。

    そうしたら発想豊かな子供本人が、対策っぽい事を思い付いて何となく満足してしまったりして\(^o^)/

    て、どんだけ楽天的\(^o^)/

  9. さと より:

    ウチも信頼できる児童精神科医の先生に娘3人と、お世話になってきました。
    その先生は、いつも私たち親子のことをきっと大丈夫!って誰よりも信じてくれている事が伝わってきて勇気がでます!
    先生のブログも同じで気持ちがラクになります。
    上手く言えないですが…💦

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