発達障害

話をしてください! 〜患者さんが喋ってくれないとき〜

小6男児です。

 

学校、おやすみしているんだってね。

 

男の子
男の子
……

 

僕はおやすみは別にいいと思うんだよ。

君の思っていることを教えてほしいんだ。

学校、楽しい?

 

男の子
男の子
……楽しくない

 

何が楽しくない?

 

男の子
男の子
……

 

勉強? 友達? どっちがつらいかな?

 

男の子
男の子
……わかんない

 

 

昨日のブログと逆。

喋ってくれないパターンだ。

 

正直、僕が一番苦手とするタイプ。

喋ってくれないと、何を考えているかわからない。

何に困っているのかもわからない。

 

 

親御さんに聞いても、「私にもわからないんです」と言われるのが常だ。

自宅でも喋らない。

診察室でも喋らない。

きっと、学校でも喋らない。

突然キレたりして、先生を困らせているようだ。

 

 

気持ちの言語化が苦手な子がいる。

自分の考えを、人にわかるように伝えるのが苦手なのだ。

 

「こんなふうに言われていやだった」

「これが悲しかった」

「ここが改善されたら登校したい」

「今は1人になってゆっくり考えたい」

 

そうやって表現する語彙を持たないように見える。

 

 

知的にゆっくりなのかもと思った。

でもこの子はWISCという子供向けの知能検査を受け、ごくごく標準的なIQ (知能指数)だった。

 

WISCには『言語理解』という語彙や表現、ルールの理解度などをみる項目がある。

それも普通か、むしろ高いくらい。

 

年齢相応に言葉の能力は身についている。

でも、表現できない。

なぜか。

 

 

本人が喋ってくれないので推察の域をでないのだが、

この子は自閉スペクトラム症ではないだろうか。

 

 

自閉『スペクトラム』。

スペクトラム:連続性とか、分布範囲とか。

 

 

自閉症は、黒か白か、病気か正常かという概念ではない。

実はほとんどの人は自閉症の特徴を持っている。

 

特徴の強さはグラデーション状で、濃い人と薄い人とがいる。

その傾向がどの程度色濃くあるか、ということだ。

 

 

全部で10段階として、9とか10特徴がある子は、誰がみても自閉症の診断をつける。

難しいのは5〜8の子。

すごく目立つわけではないけど、なんとなく困る子。

人によって自閉症と言われたり健常と言われたり、『グレーゾーン』と言われたり。

ちなみに僕自身も5〜6くらいあるような気がしています。

 

 

で。

実際このくらいの微妙な子は結構いる。

環境によって問題になることも、まったくならないこともある。

でも、かなりいる。

 

この子たちは、それなりに他者とコミュニケーションがとれる。

でもツーカーとはいかない。

 

集団行動もできる。

でもこだわりが強く、はみ出すこともある。

 

学校生活は、一見それなりに順調そう。

でも本人には結構苦痛だ。

 

そのしんどさに、周囲の大人は気づかない。

この子たちは、自閉スペクトラムなので、自分の気持ちにも鈍感だ。

 

なんとなく嫌な感じ

とは思うが、具体的に何が嫌でどうしたいかは、自分でも気づかない。

 

なんか嫌

という思いだけが積み重なってゆく。

 

我慢があふれると、急にかんしゃくを起こす。

でも怒った理由を、周囲の大人も、本人さえも理解できない。

 

さらに「なんか嫌」が重なる。

この子は、その挙句に不登校になったのではないだろうか。

完全な推測だけれど。

 

 

もしこの仮説が正しければ、「答えない」「説明できない」は、この子にとって真実だ。

実際に「わかんない」のだ。

 

学校が好きではない、でもその理由は「わかんない」。

今後自分がどうしたいか、そんなこと「わかんない」。

 

これを掘り起こそうとするのは酷だろう。

 

 

 

どうするか。

僕たちがよく使うのは、クローズド・クエスチョンだ。

Yes/Noで答えられる質問や、「AとBならどっち?」という二者択一を、クローズド・クエスチョンという。

選択肢を提示することで、「その選択ならコッチ」と答えやすくする。

 

 

反対に「学校の何が嫌?」「これからどうしたい?」というように、答え方が無限に広がる質問の仕方をオープン・クエスチョンという。

 

昨日書いたような、話したいことがたくさんある人にはこの質問法をつかう。

「今日はどうされましたか?」

という医者の決まり文句。アレです。

 

「勉強と友達だと、友達の方が困っているんだね」

「教室と保健室なら、保健室のほうが居心地がいいんだね」

という具合に、クローズド・クエスチョンにして、子供の考えを少しずつ絞り込んでいく。

誘導尋問にならないように気をつけて。

 

ある程度の情報が得られたら、

「きみは○○と思ったから、こんな行動をしたんだね」

と大人がまとめる。

 

「△△って言われたんだ。それは嫌だったね」

と気持ちを代弁するのも効果的だ。

 

これを繰り返すことで、子供は

「こんなときは嫌だって言えばいいんだ」

と学習していく。

気持ちに対応する表現を学んでいくのだ。

 

これをソーシャルスキルトレーニングという。

 

 

診察室で短時間行ってもあまり意味がないので、

できれば親御さんが日頃から意識して実践してくれるとよい。

毎日の繰り返しでその子の語彙が増え、表現が豊富になる。

周囲に説明できるようになると、理解が得られ、子供のストレスも低減する。

「この子は無口で、何を考えているかわからないんです」というレッテルを貼ってしまうと、その子の表現能力は伸びが止まる。

でも強い自閉傾向の子ではないので、コミュニケーションをとりたいという欲求はあるはず。

時間はかかっても、少しずつ積み上げればかならず実を結ぶ。

数ヶ月たって、彼自身の言葉が聞けたとき、僕はとても嬉しい。

POSTED COMMENT

  1. あさみ より:

    ソーシャルスキルトレーニングってそういうことなのですね。

    本当に、書籍化してほしいです。
    自分でメモしないとですね。

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