心理学

わからないことがわかる 〜自分を客観視する〜

思春期。

自我が芽生える、青くて甘酸っぱい時期。

汗と涙とよだれと脳汁とホルモンと、いろんなものが溢れ出る時期。

 

美しい。

もう戻れないし、戻りたくない。

芽生えた自我が、過剰な自意識となって襲い掛かる。

失敗もたくさんする時期だ。

 

僕は40近くなり、汗と涙は枯れ果て、よだれだけ残っている。

いわゆる中年太り。

今日のご飯は何にしよう。

 

こんな子がいました

いわゆる「いい子」。

めっちゃ「いい子」。

これまで周囲の期待に応え、優等生で過ごしてきた。

 

加えて、お母さんが心配性で。

先回りして色々言ってくるタイプ。

 

そしてこの子も心配性。

お母さんに言われる通り、ミスなく失敗なく頑張ってきた。

 

うむ、おそらく親子ともに不安の強いタイプだ。

ペリーはどこから来るか 〜不安の強い人・弱い人〜ペリーはどこから来るのか。 マシュー・ペリー マシュー・カルブレイス・ペリー(Matthew Calbraith...

 

この子が思春期になり、「自分」が出てきたのでしょうね。

 

女の子
女の子
部活がしんどくて、やめたいんです……。

 

これが、初診時の訴え。

 

聞くとコーチの物言いがキツく、怖いらしい。

自分が言われるのはもちろん、他の子が叱られているのを見るだけでも変な汗が出ちゃう。

強いストレスがかかり、頭痛とか腹痛を引き起こすと。

 

うむ、不安が強い上に、繊細なタイプだろう。

HSCか。

 

 

でも、部活をやめられない理由があって。

 

女の子
女の子
お母さんが、受験に不利になるから辞めるなって。

 

現在中2のこの子。

3年間部活を続けると、内申に書けるのだそうだ。

あと半年で引退だから、ここで辞めると損! とは、母の意見。

 

それでも、そんなにしんどいなら辞める方がいいんじゃない?

本人に聞くと、そこまでして内申をあげる理由もない、ってかまだ志望校とか決まってないと言うし。

 

すると、母の暴走か?

話を聞く。

 

母
この子、もうすぐ受験なのに、ぼーっとして志望校も全然決まらなくて。

しっかり教育してくれる〇〇高校がいいと思うんです。

もちろん本人の希望があれば優先しますけど、何も言わないので。

 

とのこと。

 

お母さんは、ただ過干渉なわけではない。

児のことをよく考え、自己主張しない(自分で決められない)特性を把握した上で先回りしているのだ。

お母さんの気持ちもよくわかる。

 

おおぅ。

誰も悪くない。

 

こんな感じで通院がスタートした。

 

思春期と自我

似たようなケースは、実は多い。

 

いわゆる「いい子」。

周囲の言う通りに、「ちゃんと」「しっかり」「真面目に」やってきた。

 

この子が思春期に、バランスを崩す。

 

あれ、なんかしんどいぞ?

 

目の前の〇〇(この子の場合は部活)がしんどい。

それはハッキリ自覚できる。

でも、じゃあ〇〇をやめてどうするかというと、わからない

 

部活をやめて内申が下がっても大丈夫?

わからない

 

本人は立ち止まる。

でも、今まで「いい子」だった分、周囲の大人もサポートの方法が分からない。

困ってしまう。

 

思春期って、『自分』が溢れ出ちゃうんだと思うんだよね。

それまで『自分』より『周囲のニーズ』を優先していたこの子。

それが、なんか違う! ってなる。

 

そして厄介なことに、でも、どうしたいかは分からない。

そんな時期。

 

 

もがくしかないのだろう。

汗と、涙と、いろんな汁を分泌しながら。

 

ぶつかってもがいて。

近づいて離れて。

そうして、これまでの価値観をぶっ壊す。

うむ、青春じゃ。

 

 

「部活がしんどい」で始まったこの子。

その後も次々と、

  • 勉強がしんどい
  • 受験しんどい
  • 友達関係がしんどい
  • あれ、そもそも学校自体しんどくね……?

とぶつかりまくり。

 

この子、そもそもこんなことを考えた経験がない。

これらは当たり前にやるべき対象であって、「しんどい」とか「いやだ」という選択肢など、思いつきもしなかった。

こんな黒い感情、自分の中に存在しなかったものだ。

 

対処法がサッパリわからない。

何が嫌で、じゃあどうしたいか、もう全然わからない

 

わからないことがわかる

この子がね。

ある時、言ったんです。

 

女の子
女の子
私、自分がどうしたいか分からないんです。

これまで考えてこなかったので。

 

これまで僕の質問に対し「どうしようどうしようわかんない決めらんない」だったこの子。

はっきり、自分の口から言った。

「自分がどうしたいかわからない」と。

 

分からないことを自覚した

 

ということだ。

 

今までは、分からないことを分かっていなかった。

今、「自分の考えが、自分でも分からない」と自覚した。

これは、とてもとても大きな一歩だ。

 

 

自分で自分が分からない。

 

その事実を、冷静に客観的に把握した。

第三者的に、

「あぁ私は自分のことが自分で全然わからないんだなぁ」

と。

 

これを聞いて、僕は思った。

 

この子はもう大丈夫。

あとは時間の問題だ。

 

 

「わからないことがわからない」という状態が、一番しんどい。

何が分からないのか、分からないのだ。

解決策も探せない。

 

人に聞くこともできない。

周囲もサポートできない。

本人は大混乱。

 

ここを抜け、「自分はこれが分からない」と分かれば、不安は軽減する。

 

不安って、分からないから不安なのだ。

具体的に「これが分からない」と分かれば、解決には至らずとも不安は減る。

 

 

この子、これからもまだまだ壁にぶつかるだろう。

汗も涙も流すだろうと思う。

 

流せばいいよ。

思春期の、汗と涙と脳汁とを。

 

ここを乗り越えたら、この子は強い。

自分の人生を生きていってくれるだろうと思う。

 

 

それができると、お母さんの不安も激減するだろうしね。

親子は響き合う。

プレッシャーに感じていた母が、最高の味方となる日は近そうだ。

 

そんな親子にほっこりしつつ、僕は今日のご飯を考える。

青春は枯れ果て、もうヨダレしか出ない。

あ、コレステロールとか中性脂肪とか尿酸とかは出ているのかもしれない。

まるで美しくない。

POSTED COMMENT

  1. 迷える母羊 より:

    爆弾児との関わりに苦悩していたら、思春期の姉がその時を迎えました。

    爆弾児は姉のストレス原でもあるけれど
    その存在のお陰で姉に無理をさせることはない。

    本人色々理解はしてる。
    だから時間が必要だと思っています。
    本人が深く自分に納得する為に。

    どうにもならない爆弾児の取り扱いは未だに取説見つけられずにいますけど・・・

  2. たんすー より:

    こんにちは。
    小6の娘が、半年前にハッキリときっちりと、思春期に突入しました。なので、先生の言う、いろいろな汁を出すのはこれからだと思いますが、
    わたしもいつか、「プレッシャーだった母親が、最高の味方」となりたい、と思いました。

    彼女がぶつかりまくって、散らかした骨は黙って拾う覚悟はしていますが、
    その覚悟はいつも簡単に揺らぐので、正直心配ですが…笑

  3. しのぶ より:

    こんにちは!

    「汗と涙は枯れ果て、よだれだけ残っている」

    ヒドイ状態 (ToT)

    いえいえ、P先生は診察で、こうして
    青春に思いを馳せる機会があるから 脳汁は出ているほうだと思います。

    目の前に問題があって どうしようもなく見えても
    ずっとそのままではないよ、
    って思える記事を いつもありがとうございます^ ^

  4. ゆきあき より:

    朝から涙が出ました。
    まだ枯れてないようです。笑

    息子は、今何もかもイヤだ、な時期です。
    学校もちょこちょこ休む。
    具体的に何がいやなのか、聞いてもよくわかってない?
    勉強がイヤなのは確かなんですが。

    自分で自分がわからない状態なことを、自覚出来るようにまずは話してみようかな。
    大人になるって自分を知る事なんですねー

  5. 匿名 より:

    先生!いつも素敵なお話ありがとうございます。

    私もかなり先回りして子どもの心配してしまいます。最終的にはなるようにしかならないと分かっていても
    特性を考慮して色々と悩み尽くしたいんです。

    私の読み違い?勘違い?だったら申し訳ないのですが
    今回の話を含めて、最近の先生のブログの
    お母さんに対する視線が優しく感じられて
    勝手に励まされています。ありがとうございます。
    専門家でないので分からないことだらけだし
    ドーンと構えてられないですが
    子どものことを悩んでいることを肯定された
    みたいで嬉しいです。

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