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言わなきゃ分からない 〜患者さんの気持ちが分かった体験〜

引き続き、コミュニケーションの話。

 

やっぱ、

言わなきゃ分からない!

と実感した出来事があった。

 

不登校児の親御さん

僕はある程度以上の年齢の子は、親子別々に話を聞くことが多い。

親御さん・お子さんに聞かれたくない話が、それぞれあるだろうから。

 

で。

この不登校の中学生は、自分の思いをかなり喋ってくれるタイプ。

なのでお子さんメインに話を聞いていた。

親御さんは、5分程度の短い面談だった。

 

 

でね。

このお母さん、僕は割とクールな人だと思ってたのね。

お子さんのことをよく考え、支持的に接してくれる人なんだけど(接し方に問題がないから面談時間を短くしていたのもある)、喋り方が淡々としていてクールな感じ。

 

お子さんとの情緒的なやりとりは、しっかりある。

一方で、お母さん自身の人生の軸もしっかり持っているように見えた。

 

一時期、お母さんの仕事? 勉強? で、お子さんとの時間が減ったことがあった。

それまでのように、いつでもお母さんに泣きつくことができなくなったお子さんを、僕がなだめる役回りだった。

 

お母さんにはお母さんの都合がある。

夜に話をする時間を取ってくれるから、それまで待とう。

しんどくてお母さんに頼りたいのもよく分かるけど、お母さんの人生も同様に大事だよ。

 

余談だけど、僕は親御さんの人生を大事にしてほしいってスタンス。

お子さんのために、親御さんの人生を犠牲にすることは避けたい。

もちろん「今はムリ」な状態なら、一時的にお子さんを優先してほしい。

でもある程度落ち着いているなら、親御さんの用事を優先してほしいと思う。

 

親御さんが人生を楽しんで初めて、お子さんを支えられる。

親御さんがどんな人生を歩んでいるか、子どももよく見てると思うし。

 

この子も、「お母さんを応援したいし理解はしてるけど、でも寂しい……」といった感じだったので、僕のような第三者がヨシヨシする役目だ。

良い仕事だ。(エッヘン)

 

お母さんの新しい仕事

時は流れ。

この子は学校に復帰した。

ご本人の頑張りと、ご家族の頑張りの賜物だ。

 

よかったね!

おめでとう!

 

 

学校生活も軌道に乗り、もう大丈夫だろうということで、僕の外来を卒業したのだけれど。

最後の外来で、診察室から出ていく際にお母さんが一言。

 

母
あ、私、子どもの不登校を経験して、先月から不登校支援の仕事を始めたんです。

 

え?

そうなの?

 

母
こんな経験をしたからこそ役に立てるんじゃないかって。

私自身の人生も変わりました。

本当にありがとうございました。

 

ちょっとーーー。

言ってよ。

 

 

僕、お母さんは割とクールなタイプだと思ってた。

子どもの不登校としっかり向き合ってくれているけれど、そこまで心が動いているとは気づかなんだ。

ヒョウヒョウとして見えたから。

 

不登校関係の仕事を始めたってことは、やっぱり思い悩むこと、壁にぶつかることがたくさんあったのだろう。

それを乗り越え、消化し、自信につなげたのだ。

 

言ってよ!

そんな話、しなかったじゃーーーん。

 

 

そう、僕はお母さんがそこまでいろいろ考えていたことに、微塵も気づかなかったわけだ。

お子さんは小さなことでも逐一報告してくれるタイプだったから、余計に。

お母さんは落ち着いてるな、達観してるなぁ……とノンキに受け取っていたわけ。

 

僕がにぶいのは分かる。

でもさ、やっぱ、言ってくれなきゃわかんない!

 

 

仕事にしたってことは、不登校を支援する役割に価値があると思ってくれたってことじゃん?

他にも関係した第三者はいただろうけど、僕もその中の一人ではあるわけ。

 

でも僕、自分が役に立ってる実感が全然なかった。

対お子さんに関しては、意味があると思ってたけど。

対お母さんには、なんか意味ある? って。(このケースに関しては、です)

 

だってお母さん、クールだし達観してそうだし、しっかりしてるから。

僕に相談することなんてないだろうと思ってた。

 

案外役に立ってたってこと?

んもう、言ってよ。いけず。

 

 

そりゃね。

普通に考えて、「不登校児に寄り添う親御さん」だもの。

思うところもあるでしょう。

ご自身とも向き合いつつ、お子さんへの対応を試行錯誤しているのは、そりゃそうだ。

 

でもさー。

割とクールに見えたんだもん。

僕には分からなかったわけよ。

 

言わなきゃ分からない

やっぱ、

言わなきゃ分からない

と痛感した。

 

分かんないんだよー。

本人が思っている以上に伝わってない。

 

分かってるハズ。

伝わってるハズ。

は、全然伝わっていないと思う。

 

言葉に出したって1/3も伝わらないんじゃないかと。(シャムシェイド)

ましてや、非言語的コミュニケーション(にらみつける、ドアをバタンと閉める、チラチラ見る、とか)は、ほぼ伝わっていないと考えてよいように思う。

純情な感情は空回り。

 

 

言わなきゃ分からない。

 

この仕事をしていると、親子で、夫婦で、思考がすれ違っているケースを多々目にする。

実にもったいない。

オーバーなくらい言っていいと思う。

意図した1/3も伝わっていない(シャムシェイド)と考えるくらいで、ちょうど良い塩梅ではなかろうか。

POSTED COMMENT

  1. @222nekoko_fu より:

    実は私もそうです。

    娘の不登校・引きこもりで自分らしく生きることをサポートする側に目覚めました(^^)

  2. サク櫻井 より:

    シャムシェイド、懐かしい〜。同年代でしょうか。
    ワタシも、このママと同じ感じかもしれません。ドクターって、(お母さん言ってよ〜って)そういう風に感じるものなんですね。タイプによるでしょうが。

  3. くろこぶたん より:

    我が家の次男がASDであちこちでお世話になってますが、同じくASD息子がいるママと話していて「将来的に今の経験が活かせるようなことができたらいいね!」と話が盛り上がったことがあります。
    経験してるからこそってのがありますもん。
    自分がたくさん支援を受けているので、何かしらで恩返ししたい気持ちもありますし。
    そう思えるのは、そう思えるだけ心の余裕ができたんだと思うし(頻繁に余裕なくなりますが・笑)、その余裕ができたのは色々な支援のお陰だし。
    同じように思う方は多いのかもしれないですねぇ。

  4. まぼ より:

    「お母さんにはお母さんの都合がある。お母さんの人生も同様に大事だよ。」先生が話したこの言葉、とても素敵だと思いました。こういう事を家族以外の近い存在であるP先生に言われると、子どもの心に響きますよね…。
    私もいつか不登校支援の仕事をしたいという夢ができたので、このお母さんの気持ちが分かります。でも不登校の真っ只中にある今はおこがましくて、他人様の支援をしたい!なんて決して口に出せません。
    なんだかほっこりすると同時に、自分の人生を楽しむ姿を子どもに見せることが大切だと、改めて思いました。

  5. かず より:

    言わなきゃ分からない。
    聞かなきゃ分からない。
    実感です。
    家から一歩も出ない引きこもり息子。
    コロナ予防接種は諦めていました。
    ダメ元で聞いてみると、一つ返事で受けるとの事。
    しかも、「感染予防、安心安全、不登校」等と言い出す始末…。
    コロナ感染予防に意識高めである事がわかり驚いています。

  6. しのぶ より:

    おもしろいですね!
    そのお母さんは、診察の時間を自分に割いてもらったり先生からお褒めの言葉をもらうのを避けておられたのかもしれませんね。想像ですが。
    もしかしたら実際に働く日にちが決まっていない状態だったら最後の診察の時でさえ報告しなかったりして。
    でもきっと、先生をとても信頼され、先生の関わり方から言外にいろいろ学んでおられたのではないでしょうか。

    不登校児の親ならば少なからず悩みもあったと思うしペリーもいたかもしれませんが、先生がよくおっしゃる、子供の問題と親の問題を分けて考える、のスタンスで、ご自分で落とし所を見つけて来られたのかも。
    何にしても、カッコいいお母さんだなと思いました。
    あと、先生がお子さんに対して⬜︎内のようなお話をされているのを想像して何だかホッコリしましたw

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