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あなたの「うまくいきかた」

このままで、将来うまくいくのか。

 

もっとこうした方がいいんじゃないか。

 

あれができないと致命的なんじゃないか。

 

 

大丈夫。

うまくいくやり方が、きっとある。

その子の居場所は、必ずある。

 

小児科と精神科

精神科(大人向け)の先生に聞く機会があったのだが。

発達障害の患者さんのうちわけは、圧倒的にADHDが多いそうだ。

 

僕は驚いた。

僕の外来に来る子は、どちらかというとASDが多いから。

 

ADHDも多いけど、比較するとASDに軍配が上がる。

少なくとも「ADHDが圧倒的多数」ではない。

ASDの有病率 3.22%(2020, 弘前大学)

ADHDの小中学生の有病率 3.6%(2012, 文部科学省)

 

※数字は統計によって大きく異なる。

※カウントされるのは診断された人のみ。「診断に至らないけど特性のある人」はこの数倍いると思われる。

※なので、実際の有病率は不明。

 

僕の経験では、幼児期から中学生くらいまでは、ADHDやLDよりも、ASD的な特性で困ることが多いように思う。

ASDタイプは、コミュニケーションの問題や興味の偏りなんかでトラブルを起こす。

園や学校といった集団生活の場で、ASD特性は結構困るのだ。

 

ADHDについては、これは個人的な見解なんだけど、子どものうちはあまり困らない様子。

衝動性(ケンカ)や多動(離席)は困るけど。

これらは、10歳以降は治まってくるケースが多い。

 

最後まで残るのが不注意なんだけど。

コレ、本人あまり困らない。

忘れ物しても遅刻しても課題を出さなくても、本人どこ吹く風だったりする。

特に、小学生はまず困らない。

それよりゲームしたい!

 

困るのは、早くて中学生、遅いと社会人でしょうか。

課題が成績に直結するか、シャレにならん書類を忘れるか。

大きな失敗を経験し、やっと本人が気を付けるようになる。

 

 

だもんで、子どものうちはASD特性の方が困りやすいのかなーと。

不注意ではっきり困るのは、ある程度社会的に自立してからなのでは。

だから小児科はASDが多く、精神科(大人向け)はADHDが多い。

という仮説。

 

児童精神科がどうなのかは気になるところ。

 

今困る人が、将来も困るか

でさ。

ADHDって一般的に、大人と子どもで層が異なるらしいんだよね。

 

子どものADHDの8割が、大人になると診断から外れるらしい。

「治る」のだ。(経験や注意から困りごとが減るってだけで、特性がゼロにはならない)

 

そして、大人のADHDの大部分が、子どもの頃はさほど困らなかった人らしい。

環境変化や経験で症状が出てくるのか?

「子どものADHDと大人のADHDは別の疾患」という見解もあるくらいだ。

詳しく知らないけど、非常に興味深い。

 

 

ってことは。

まとめると、

精神科(大人向け)に通っている人は、子どもの頃は受診していない可能性が高い

と言える。

 

受診している層が異なる。

「子どもの困りごとがそのまま残存し、成人に移行する」ってわけでは、どうやらなさそうだ。

 

 

もちろん、受診の有無が困りごとの大きさに直結するわけではない。

「受診はしてないけど困ってる」って人もたくさんいるだろう。

でも、今困って受診している人が、大人になっても困って受診を継続するかという観点では、「その限りでない」と言える。

 

私はこんなふうにうまく行きました

発達特性や、不登校なんかでもそうだけど、「私はこんなふうにうまくいきました」という体験談を多く見る。

それ自体は良いことだし、実際その通りなんだろうけど。

これが、「じゃああなたもこうやればうまくいきます」とはならないのが難しいところ。

うまく行き方 〜不登校はこんなふうに終わる〜不登校。 子どもが学校に行かない。 そう思いません? ...

 

うまく行き方って、無限にある。

そしてある人がうまくいった方法が、他の人にも当てはまるとは限らない。

 

 

社会を見渡したときに、「あぁこの人は発達障害特性がありそうだな」と思いながらもうまく適応している人は、ものすごーーーーーくたくさんいる。

僕の周りにもめちゃくちゃいる。

メディアで見かける芸能人にも多くいる。

外来で話を聞く親御さんだって、「おや?」とは思っても、立派に社会適応して何の問題もなく生活している。

 

うまくいきかたは、無限にある。

成功モデルも、無数にある。

 

でも、じゃあ目の前のこの子もAさん(特定の成功者)と同じようにすれば大丈夫かというと、そうではない。

これはお分かりいただけると思う。

 

 

「私はこうやって成功しました」的な話は、聞いててポジティブになるし、勇気づけられる。

成功例をたくさん集めて参考にするのは、とても良いこと。

だけど、「目の前のこの子」にそのまま適用できるとは限らない。

 

失敗を避ける

それより僕は、失敗パターンを避ける方がよいと思っていて。

成功者を真似るより、失敗パターンを回避するのね。

こじれる人って大体似てるから。

成功者を真似るな!完全な私見なんだけどさ。 これ、めっちゃ思うんだよね。 うまく行った人を真似しちゃダメ!!! 理由がある ...

 

「自己肯定感を上げる」より、「自己肯定感をへし折らない」とかさ。

「得意を探す」より、「苦手を避ける」的な。

成功に向かうより、失敗から遠ざかる方が現実的。

何が成功するかはわからないからね。

 

失敗を避けて、あとは片手を空けて待つくらいでちょうどいいのかなーと。

ってか、それしかできないんじゃないかとすら思う。

 

ホント、思いも寄らない形で成功するのよ。

かく言う僕だって、今のポジションは計算で得たものではなく、マジ偶然。

 

世界は優しい

でさ。

ここからが、今日一番言いたいことなんだけど。

 

世界は、優しいんだよ。

 

本当にそう思う。

 

 

発達に特性のある子。

多分さ、義務教育が一番つらいんだ。

 

義務教育って、枠があって、正解がある。

そして、多数派が枠で、正解だ。

特性のある人はどーしたってはみ出す。

 

でも、広い世界に出たら。

社会に出たら、枠も正解も取っ払われる。

正解なんて、それこそ無限にある。

特性があると適応できないってことは、全然なくて。

 

  • コミュ力がなくても、立場的にオッケーな人がいる。
  • 不注意が、むしろ独創性を加速させている人がいる。
  • プランニングが弱くても、特に問題とならない環境がある。
  • こだわりなんて、このネット社会では発揮し放題だし。
  • そしてたいていのやらかしは、「ごめんテヘペロ」で許される。

 

世界は優しい。

そう思う。

 

 

テレビで活躍しているあの人だって、よく考えてみると結構アレだ。

職場でエラソーのしているあの人も、立場が違ったらかなりアレだろうし。

愛されキャラのあの人、冷静に考えると割とアレだぜ?

 

でも、みんな適応している。

その人の居場所が、ちゃんとある。

さほど困らず、受診を必要とせず生活している。

うまくいきかたって、無限にある。

 

 

世界は、思ったより懐が深い。

思ったより「多様性」だ。

色々な個性がごっちゃになっているのが社会で、自然な姿だ。

 

社会って雑多。

大丈夫、優しい。

 

その子のスペシャルな場所が見つかるまで。

その子自身でたどりつくまで。

『玉』をじっくりみつめ、自己肯定感をへし折らず、必要時は骨を拾い、片手を空けて待つくらいでちょうどいいように思う。

pediatrician-p

View Comments

  • それー!てなりました!
    自分が勝手に世界は怖い事にしてたんですよね、実は間違いなんて最初からなくて全部どれでもOKなのに。
    前提から間違えてました。笑
    その上で、自分を理解して対策するとより最高と。
    義務教育期間より社会に出てからの方が自分に合わせた環境を自力で選びやすいですよね、そのために社会に出るまでに自分にどんな特性があるか分かっておくとそこに向かって進みやすいですよね。
    私は30年以上怖い世界の住人だったので、まだペリーさんが来ちゃう日があるけど、その度じっくりお話してご納得頂いてご帰国して頂いてます。どーせしばらくはまた来るでしょうけど。ペリーが来た時、ここでホッとさせて貰ってます、ありがとうございます!

  • 世界は優しい。
    先生の一言が心に沁みます。

    3年間全く登校してない子が
    明日、入試に挑みます。

    自分の名前以外の漢字は全く
    書けなくなった程の子が、
    学力試験を受けることを
    選びました。

    明日はそもそも受けられるか、と
    心配そうな気持ちを
    打ち明けてくれました。

    「大丈夫だよ。
    どんな状態でも支えるから」
    と伝えました。

    この子の中学3年間は私も必死で、
    1日1日を生きるのに精一杯でした。
    でも、もう高校生になるんだなぁと
    ふと思って、涙が出ました。

    部屋にこもりきりの3年間で、
    何を成長してるのかは
    彼の内面までは分からないけれど。

    とりあえず、明日は骨を拾ってきます。

  • 本当にそう思います!
    息子が4〜5年生で荒れていたとき、本人もはっきり理由を話せないような他害が続きました。
    学校の先生方も私も“このまま成長したら、大人になってとんでもない事件起こしたりしないだろうか”と、とても心配しました。
    児童精神科の主治医に相談したら『今の状況で将来は考えなくていいです』とあっさり流されました(笑)。
    あまりにあっさり流されたのでそのときは理由などは聞けなかったのですが、今なら納得できます。
    “困りごとはずっとは続かない”と自分に言い聞かせつつ、息子本人にも共有するようにしています。
    しかし、子どものADHDの8割が大人になったら診断がはずれるとは初耳!朗報!(残りの2割に入るかもしれないけど(笑))
    長い目で見たらたいていのことはなんとかなる!はず…と肝に命じて息子を見守っていきます。(なんともならないことも、ある)

  • いつもためになるお話をありがとうございます。

    うちの中2娘は、小2から引きこもっていますが、最初は荒れたものの、その後はおひとり様を大満喫しております。
    なぜか、輪廻転生系のドラマが好きで(今クールの、ブラッシュアップライフ最高!)、めんどくさがり、人使いが荒い、好き嫌いハッキリ、勉強嫌がる、高尚な趣味を持っている(プライバシーに配慮して内容は伏せます笑)、精神年齢高めの悟り人…。

    これを総合すると、あなたが前世どこかのお姫様だったったってことじゃん?好き放題してて家臣に追いかけ回されるおてんば姫みたいなーーそう私が言うと娘は生き生きし始め、ゴミ出し寒いから無理ー勉強はめんどいーあれ欲しい〜(趣味のもの)と言い出して、さながらお姫様(暴君?)のよう。

    文字にするとニュアンスを誤解されそうですが、けして親が子供に支配されているわけではなく、実態に即した我が家のじゃれいあいトークです笑。ちゃんとやるときはやってます、たまにだけど。

    義務教育、集団生活にはまらない子だと思っているので、早く得意分野(めっちゃすごい)でバイト、仕事できる年齢・身分になってほしいです。娘も、自分が今中学生で、活動できる場所が限られていて、行きたい且つ行ける場がなくて悶々としていることを半ば諦めて受け入れている感じです。けしてサボってるわけじゃなくて、集団に合わせたら本当に倒れてしまうから….。今の時点でも周りもあたたかくて、本当に感謝しています。

    • いろいろ娘のことを考えると、輪廻転生に惹かれるというのも、
      今の人生やり直したい願望があるーといった側面もあると思っていて、
      多数派に入りたかったのに、なぜか自分は違和感があってうまくできなくて多数派に属せなくてがっかり。
      小学生の時点で、私の思ってた世の中と違ったんですけど!!!みたいな衝撃。それって私が悪かったんですか?!←いや、あなたは悪くないけど、そういうときもあるのよーーというのがなかなかわかってくれなかった涙涙。
      そういうのを何周も何周も家で考えて、自分がどんな人間なのかということ悩んでいるんだと思うと、娘には尊敬しかないです。

      で、学校行きたいなと動き出してみるとコロナになったり風邪を引いたり不可抗力で歩みが止められて…娘はそれでまたがっかり。私は、これはやめておけということ?行ったら心身ともに疲弊するから引き返せということなのか?と思ったり…(考えすぎ笑)。。そんな試練を越えてでも行きたい場所なのかということを見極めたいと思って見守っています(骨拾い)。

      高校選びも、行きたいと思った全日制があったけど朝から毎日通える体質ではないし、途中で飽きそうだし、勉強わからなさすぎだし、そんな理想と現実のギャップにがっかり。定時制や通信制で自分に合うところを探しつつもあんまり惹かれないみたいで、私は無理して高校行かなくていいよ、バイトから開かれる道もあるよと伝えています。大学行きたければ、高認で行く人もいるし。

      …がっかりしまくっている娘の自己肯定感をあげてキープ奔走しつつ、とりあえず家族で楽しく過ごしてます。

      最近カウンセラーさんに娘の話をするタイミングがなかったせいか、こちらに長文をすみません!

      寒い毎日、どうぞ先生もみなさまもお身体ご自愛ください。読んでいただいた方、ありがとうございました。

  • 先生、久しぶりにコメントします。

    「世界は優しい」、先生がおっしゃるとそんな気がしてきます。
    このブログを読んで、この先大丈夫な気がしてきました。

    松潤がおっしゃっているはずなのに
    あの丸顔のお方に「元気100倍アンパンマン!」と言われた気分(*^^*)

    ODかつ気象病っぽい身体性不安障害で
    不登校を経験した上り調子の末っ子が行きたい高校を見つけました。
    その高校受験まで3週間をきりました。
    受験も進学後も「世界は優しい。大丈夫」と言い続けていきたいなと思います。

    いつも本当にありがとうございます。

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