Categories: 不登校

もしもこの子が不登校じゃなかったら

僕ね、ちょっと思ったんだ。

 

僕の外来には、たくさんの不登校の子が来る。

それぞれみんな大変だし、不登校児を抱えるご家庭も大変。

 

もしこの子が不登校じゃなかったら、今どんな状態で、今後どうなっていったんだろうーーーーー?

 

※ちなみに今日の話は、「いわゆる不登校」についてです。

学校が合わなくて、頑張ったけどエネルギーが尽きてどーしても動けず不登校になった子を想定している。

ちょっと変わったタイプの不登校、「エネルギーはあるけど学校は行かない」という子は当てはまらないかもしれません。

 

不登校禁止!

不登校のこの子。

不登校じゃなかったらどうなったんだろう。

この子の過去に遡り、不登校を断固阻止した場合をシミュレーションしてみる。

 

 

低学年で不登校のこの子。

泣いてもわめいても、無理やりひっぱって学校に連れて行く。

本人の言い分は聞かず、「学校は行かなきゃダメ!!!」と強く押さえつける。

 

きっとそれは可能だ。

泣きながらでも学校に送り込むことは可能。

これを続け、「学校は行く一択」と刷り込む。

 

もし過去にそうしていたら、今は学校に行っているかもしれない。

その場合、高学年になったこの子は何を感じ、どう行動しているのだろう。

 

 

高学年で不登校のこの子。

愛情を人質にとって、無理やり登校させることはきっと可能だ。

 

「学校に行かなきゃ愛してあげない!」

 

きっと、心に蓋をして学校へ行く。

親に見捨てられる方が不安だから。

 

不安の強いこの子だ。

「学校に行かなきゃ人生終わる」「ロクな大人にならない」なんて言葉で脅すことも有効だろう。

 

そうやって不安に駆られて登校を続けた場合。

この子が中学生、高校生になってしんどい事と直面したとき、何を考えどう行動するか。

 

 

中学生で不登校のこの子。

中学生くらいになると、力づくで登校させるのは難しい。

でも、知恵が育って、自分が求められる行動を承知している年齢だ。

 

「学校に行って真面目に勉強するのがいい子」

「友達みんなと仲良くするべき」

「部活や委員会など、なんでも頑張っている子が認められる」

 

周囲の大人の期待を感じ取り、応えようとする子は多い。

こんな子に大人たちがよってたかって狡猾にプレッシャーをかけたら、限界を超えて頑張るかもしれない。

 

そうやって限界を超えて頑張り続けたこの子。

どんな大人になって、どんなふうに社会に出るのだろう。

周囲の人に対してどう感じてどう振る舞い、どんな人生を歩むのだろうーーーーー。

 

不登校直前が最悪

不登校経験者のこんな話を聞いたことがある。

 

不登校になる直前が一番しんどい。

不登校が始まった瞬間から、心の回復は始まっている。

 

詳細は忘れたが、こんな内容だったように思う。

不登校するって決めたら、心は守られるのだ。

不登校できずに頑張っているときが一番つらい、とのこと。

 

そうなんだと思う。

僕は不登校の経験はないけど、きっとその通りなのだろう。

 

もちろん不登校になってからも、将来への不安とか周囲の目とか家での居場所とか、問題は山積みだ。

でも、最悪は不登校になる直前。

不登校って、心を守るためにするものなのだろう。

 

 

考えたんだ。

じゃあ、不登校を許可してくれる家庭ってめっっっっっちゃありがたいんじゃね?

 

上述の通り、子どもを無理やり登校させる手段はいくつか考えられる。

大人の力で子どもの訴えをねじ伏せるのは、比較的容易だ。

 

でも、それをしたら子どもの心は潰れる。

心が潰れても、なんとか取り繕って表面上普通に生活することは可能。

そう、表面上は。

 

学校で心が潰れ、でも家に逃げ帰ることも許されず。

じゃあ心を潰したまま登校を続けるしか、選択肢がない。

そんな状況に追い込まれたら。

 

 

この子、このあとどうなる???

 

 

ね。

想像するだにヤベーと思うんだ。

 

もちろんそれでうまく行くケースもゼロじゃないとは思う。

ただ、すごく少ないだろう。

 

表面上は問題なく学校に通い、学校生活を送る。

でも心は限界を超えている。

 

 

そんなとき、どうやって自分を奮い立たせるか。

 

僕だったらきっと、自分を厳しく律する。

 

  • 学校には行くべき。
  • 世間は冷たく誰も助けてくれない。
  • 排除されたら人生おしまいだ。
  • 学校に行けないのは心が弱いからだ。

 

こういった、「〜〜すべき」「〇〇が普通」という、凝り固まった、でも歪んだ認知が形成される。

これ、人生において非常に邪魔。

詳しくは書かないけど、人生におけるトラブルの大部分がこの「〜〜すべき」みたいな変な思い込みに起因すると僕は思っている。

この後長く続く人生、しんどい思いをし続けるんじゃなかろうか。

 

どこかで爆発する

無理やり不登校を阻止したとしても、きっとどこかで爆発する。

と、僕は思う。

いつかは必ずぶち当たる 思春期くらいのお子さんで、 「急に言うことを聞かなくなり、家で暴れています!  今までは素直ないい子だったのになぜ……」 ...

 

学年が進み、自分の主張がしっかりしたときかもしれない。

大人が絶対に正しいわけじゃない、って気づいたときかも。

それとも物理的に、親より力が強くなったときでしょうか。

 

もっと後かも。

思春期を過ぎ、社会に出てつまづいた時。

「〜〜すべき」と自分を縛って生活し、心が疲れ切ったとき。

根性や努力ではどうしようもないトラブルに遭遇したとき。

どこかできっと爆発する。

 

子どもの時分に爆発してくれたら、まだいい。

周囲の大人がケアできるから。

大人になって爆発しても、もうどうにもしてあげられないことが大半だろう。

 

そう考えると、今不登校のその子。

『今』爆発できてよかった。

不登校させてもらえる環境で、ホントによかったねと思う。

 

 

僕は、不登校はその子の特性だと思っている。

「学校が合わない特性」を持つ子だから、不登校になった。

なんらかの理由(特性)で学校に適応できずに不登校になった子が大半だろう。(子どものせいじゃなくて親のせいのケースもあると聞くが、僕は実際には見たことがない)

 

生まれつきの特性で、学校が「合わなかった」。

これは本人のせいではないし、もちろん親のせいでもない。

誰のせいでもない。

でも、「学校が合わない子」は確実に存在する。

 

 

この子は、逃げ場があって良かった。

心が潰れる前に家に逃げ帰れて本当に良かった。

心から思うんだ。

 

不登校させる意味

これを読んでいる不登校児の親御さん。

 

子どもの不登校を許可して、自分はダメな親なんじゃなかろうか。

 

そんな風に思っている方もいらっしゃると思う。

不登校を許す自分はダメ親だけど、でも子どもの様子を見ると無理強いもできない。

どうしたら……、と。

 

この不登校が、その子にとってどういう意味を持つのかは分からない。

何か意味があるのかもしれないし、完全に無駄な時間かもしれない。(芸人の山田ルイ53世さんは「意味はなかった、無駄だった」と言っていた) (僕は非常に好感を持つ) (ルネッサーンス)

それは本人が後々決めることであり、コントロールできないし、しなくていい。

 

 

そうじゃなくて、親御さんの立場から、子供を不登校させる意味。

 

子どもの心を守ること

 

だと僕は思う。

 

 

その子は不登校をして、心を守っている。

今はエネルギーが枯渇して動けないのだ。

エネルギーを回復させないことには、次の動きが取れない。

 

ここにめっちゃ大きな意味があると、僕は思うんだ。

 

とにかく休ませ、エネルギーを回復させる。

とても意味のあることだ。

 

エネルギーが溜まったら、子どもは自分で動き出す。

そこからは子どもの人生だ。

子どもに返せばよい。

 

でも、尽き果てたエネルギーを回復させる役割は、家庭にしかできない。

これをしないことには、子どもが自分の人生を歩き出すことができない。

自信を持って休ませてあげてほしいと思う。

(つまり妖怪骨拾いババァだね!)

 

 

むしろ不登校させてくれてありがとうございます。

僕の視点からみると、そう感じる。

世間の風当たりから守って、自らを責める子どもをケアして。

ありがとうございます。

 

変な言い方だけど、「不登校になってよかったね」と思う。

僕の視点から見ると。

あのまま無理して登校を続けていたら、もっともっと傷ついて、ずっとずっと回り道をしていたと思われる子がいる。

たくさんいる。

 

不登校って、一般的には悪いことだろう。

世間的にそう認識されていることは承知。(もちろん実際はそんなことないし、文科省もそう言ってます。)

でも目の前のこの子にとっては「救いの不登校」だよなーと思わされる場面によく遭遇する。

pediatrician-p

View Comments

  • 先生いつもありがとうございます😊
    不登校さまさまです。
    感謝できる時と、感謝できない時もあるのですが
    息子のおかげで私がとても生きやすくなりました。
    きっと主人はダラダラダメ人間になったと私を思ってるかもしれません笑
    が、私の人生は私のもの
    スキーマだらけで、人生は修行だといいきかせて
    自分にも、子供にも、心の中では他人にも厳しい私でした。
    今?今は甘々です。なるようになる〜
    なんとかなる〜時々不安になりそうな自分も出てきますが💦
    今は幸せです。
    不安になりそうな時ブログを読みかえさせていただいてます。感謝しています。

  • 先生こそ、ありがとうございます。

    不登校の子をもつ全ての親に寄り添ったお言葉。涙が出ました。

  • 涙が出ました。
    不登校じゃなかったら?って何度か思い、考えをめぐらしたけど…。娘は小6で不登校になったけど、きっといつか不登校か、心を壊していたと。親の私達が見守れる今で良かったんだと涙出ます。娘は今、再び歩き始めました。悩みながら、ぶつかりながら。ハラハラするけど、それは娘の人生。最近、やっと、少しそう思える。
    だから、私は私の人生を楽しむ。
    先生のブログ、たくさんの力をありがとうございます😊

  •  P先生、いつもありがとうございます。
    「詳しくは書かないけど、人生におけるトラブルの大部分がこの「〜〜すべき」みたいな変な思い込みに起因すると僕は思っている。」の部分が気になりました。

     自分でも色々思い当たる事はあるので、多分こういう事かなというのは、ぼんやりと思い浮かぶんですが。自分がこうあるべきだと思ってもできないから自己否定を繰り返すことになるとか、他人にも一般的なこうあるべきを無意識に求めて余計なストレスを抱えたり、他人に疎まれたりするとか、そもそもその「〜すべき」は本当に合理的なのか(ここで「変な」と言い切る所がP先生らしいですね)、と言う事でしょうか。
     
     差し支えない範囲でお書きいただける事がもしあるならば、いつか読みたいなと思いました。

  • P先生、いつもありがとうございます。

    今回は不登校の子を持つ親なら必ず一度は思ったことのある「不登校にならなかったら…」

    我が家の小4息子と中1娘、現在は息子はなんとか学校に戻り、娘は今年から適応教室に通いはじめました…

    わが家の不登校の始まりは息子が小1に入学した冬。
    その後の検査でADHD+LDが発覚するのですが学校まで送っても駐車場から動かない息子を見てこちらまで泣きたい気持ちになっていました。

    そしてそれにつられるように小4だった娘も不登校になり。娘はHSCで繊細ですが勉強もでき、友達ともうまくやっていたので「どうして?」ばかりが頭をぐるぐるしていました。
    今思うと娘も小4の頃には頻尿になったり、行事前には具合が悪くなったりとサインは出ていたのに。

    私は不登校になりたての頃はいつか2人が成長したときに娘が「私はずっと学校で頑張っていたのに弟の不登校せいで私も不登校になり人生が狂った」と言うのではないか…と心配していました。

    でも時が経ち、今ではきっと娘はいつか「弟のおかげで辛いって言えたし、不登校を選べた❗️ありがとう。」と思ってくれると思えるようになりました。

    不登校、私も成長させてもらっています(笑)

  • 先生のブログは有益な情報満載なのに面白くて、いつも楽しく拝読しています。
    私は昨年まで「大人の引きこもり」の方の相談を受けることが多い職場にいました。そういった方達には小中高大学生まで不登校だったことがなく、社会人になってから仕事に行けなくなって…というケースが意外と多いです。小中学校で皆勤賞を取ったなんて方もいました。でも相談を受けた際、本人に子どもの頃の話を聞くと「学校は嫌だった時期もあったけど休ませてもらえる環境じゃなかった。」って話がよくあります。親と子に別々に話を聞くと、親子の関係に問題があるケースも割と見受けられます。
    なので学校に行っているから安心、とは限らないと私は考えています。
    学校に行くのが辛い子を無理に学校に行かせるのは、もしかしたら子どもの問題(特性等)を先送りしているだけなのかもしれません。
    小3の我が子が少し前から不登校中ですが、子どもの特性や困難さが早い段階で見つけられて良かったとさえ思います。特性は変えられないので、とりあえず合わない学校には登校させずに本人と相談しながらフリースクールや市の支援センターなどを見学しているところです。
    本人が望まなければ、当面ずっと家庭学習でも全然良いかなと思っています。
    今は社会に出るまでの準備期間であって、人生は大人になってからの方が圧倒的に長いわけですから、最終的に社会に出て自立(自活)できれば過程はそれほど重要視しないことにしよう、と思っています。本人の自己肯定感がこれ以上下がらないように心を守ることが今の私の最優先事項です。

  • 先生、いつもありがとうございます。
    このような素晴らしいお話を、学校の先生に向けて講演会とかしていただけるとすごく嬉しいのですが…
    オファーは来てませんか?
    もしそのような機会があれば是非足を運びますので、ブログで教えてください。
    松潤、拝見させていただきます。

  • 読んでいて涙が溢れてきました。
    今まで、いろんなカウンセラーさんや病院の先生に会いましたが、そんな風に声をかけてくれた先生は一度もありませんでした。
    肩の荷がおりました。

  • 子どもの不登校を通じ、これまでになかった価値観を得ることができた、と思い、不登校を批判したり否定したりすることはもうない自分になりました。が、やはり、時々不安は襲ってくる。これから先どうなるのか、この状態で良かったのか、もっと良い方法はあったのではないか。
    でも、こうやって不登校の子や子どもたちに関わる専門の先生に、不登校にさせてあげてありがとう、と言われると、自分の判断は間違ってなかった、と思え、また、子どもとまっすぐ向き合うことができます。

  • いつもブログ拝見してます。
    今日のは読んでて涙が出て来ました。
    先生こちらこそありがとうございます。

    このブログを読む私を含め保護者の方の多くは
    自分を責めたり周りから責められるのがデフォでも
    「子どもの心を守るために不登校させてあげて
    ありがとうございます」なんて言われることは
    まず無いでしょう。

    きょうだい2人の長い不登校を経て思うのは
    「もしこの子らが今後学校に行けるようになったとしても、私は心から安心して喜ぶ事はもう無いだろうな。
    また行けなくなるかもしれないと常に思うだろうし、
    登校する=子どもにとって良いこと、解決!
    とはもう今は思わないから」

    でもそれは決して後ろ向きな意味ではないです。
    きっと私の思いもよらない未来を持って
    自分のペースで行くと思うから。

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