自他境界。
この言葉、聞いたことありますか?
僕はなかった。(エッヘン)
この言葉、僕はHSC関連の書籍で知った。
要するに、「人は人、自分は自分」って感覚のことだそうだ。
自分と他人の境界線。
壁みたいなもの。
みんな当たり前になんとなく持っている。
人は人だし自分は自分よね。
んだけど、その強さ(濃さ)には個人差があるようだ。
はっきり線を引いている人もいれば、自分と他人とが混ざり合いがちな人もいる。
HSCは、この境界線が弱い。
人の気持ちがわかりすぎる。
誰かが悲しんでいると、自分もつられて悲しくなる。
誰かがイライラしていると、「自分が何かしたのでは?」と不安になる。
そして誰かが喜んでいると、自分も一緒に超ハッピー!
自他境界が弱い(薄い) と表現するそうだ。
これは、悪いことではないと思う。
持って生まれた性質だ。
必要以上に人と響き合う。
これ自体が悪いわけじゃないんだけど、一つ大きな問題点が。
自分が疲れる
これだ。
そう。
疲れちゃうのだ。
とにかく疲れちゃう。
よく空気を読んでくれて、周囲はいいかもしれないけど、当の本人はぐったり疲れている。
加えてHSCなんて刺激に敏感だし真面目だしで、「自分がこんなに〇〇(気になる、つらい、しんどい)のだから、他の人も同様に〇〇だろう」と思っちゃう。
「こんなふうに言ったら相手に悪いし」とか。
で、相手を慮(おもんばか)りまくってしまい、自己主張できないというのが典型的。
イヤなことも我慢してニコニコしてる、的な。
人によっては、限界までニコニコして、ある時突然キレたり。
本人は限界まで我慢して溢れてキレるんだけど、周囲からみると突然怒ったように見える。
にこにこして急に怒る。
にこにこぷんだ。
じゃじゃまる、ぴっころ、ぽろり。
なつい。エモい。
僕は診察室で、「自他境界を引く練習をしましょう」と患児に伝えることがよくある。
自他境界が弱いと感じる子に、「意識して自分と人とを区別してみて」という。
親子の間柄でも、努めて自他境界をひくよう言う。
「『あなたは』そう思った。事実として、それはそれで伝えていいと思うよ。」
その子がそう感じたという事実を、そのまま認める。
思ったことは思ったのだ。
気持ちを認める。
いい悪いのジャッジをせず、「そう思った」という事実をまずちゃんと認識する。
そこには「そんなふうに思っちゃいけない」とか「〇〇さんに悪い」とか、そういった感情を挟まない。
「そう思った」という事実だけ。
それだけしっかり認識する。
これって大切で。
意識してこの作業をしないと、HSCは自分の意見なのか「正解」とされる意見(世の中的に正しいとか、親がこう言ったとか、〇〇さんが喜ぶとか)なのか、区別がつかなくなってしまうように思う。
素直で真面目なのよ、HSC。
いい子なのよ。
にこにこぷんだけど。
そして。
「自分はこう思う」という軸があって初めてフラットに人の意見を聞けると、僕は思うんだ。
「あの人がこう言ってる」がイコール「私もそう思う」になってしまうHSCは多い。
そうじゃなくて、「あの人はこう言っている」→「そして私はこう思う」→「じゃあここは〇〇するのがベストだな」的な。
冷静に事態を客観視できる。
本来、物事を観察して深く考察するのは、HSCの得意分野だ。
この能力を遺憾なく発揮するために必要なのが、「自分は自分、人は人」という線引き。
空気に飲まれず、自分を尊重する。
これができると非常に生きやすい。
こんなことができる。
この辺、HSCは苦手なのです。
HSCがその瑞々しい感性を存分に発揮すれば、本人はすごくラクになるし、周囲の人にとっても喜ばしいことだと思う。
ちなみにASD (自閉スペクトラム症)。
ASDも、自他境界が弱い。
HSCの弱さとはちょっと種類が違うような気がするんだけど、うまく説明できないんだけど。
でも弱い。
※HSCは他人の感情が入り込んでくる感じ。ASDはそもそも自分とか他人とか興味なくて(薄くて)、目の前の対象物が全てな感じ。うまく言えないけど。
ASDも同様に、自他境界を引く練習をおすすめしている。
自他境界を引く練習をさせる。
その時、接し方にちょっとしたコツがある。
相手の気持ちを考えさせるときに、
あなたが相手の立場だったらどう?
じゃなくて、
あなたはAと感じたんだね。
でも相手はBと感じたようだよ。
みたいに自分は自分、人は人で分けると伝わりやすいように思う。
HSCもASDも。
子供の気持ちを聞き出す時も同様。
「あなたは」どう思うの?
と聞くのがよい。
「フツーは」とか「みんなは」じゃなくて、「あなたは」。
僕の外来に来るような「普通」とか「多数派」に入れない子には特に。
自分(大人)の気持ちを伝えるときも、
「私(お母さん、お父さん、先生)は」こう思った
と伝える方がいいと思う。
「みんなこうでしょ」
「普通こうでしょ」
という伝え方は、自他境界を消す方向に作用するように思う。
この辺。↓
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だいぶ前の記事にコメント失礼します。
ADHD息子の取説よろしくいつもブログ拝見しています。
最近、学校と習い事(発達に理解のある学童)の先生から「自他の境界線が曖昧」という話をいただき、以前に境界線の話があったなと検索したところ、こちらの記事がヒットしました。
息子は記事に出てくる子と逆で、「自分はこう思う。ゆえに相手もそう思っている。」と考えているというか、そもそも「相手は別人格で、別の考えを持っている」ということが理解できていない印象です。具体的にはゲームで負けそうになると離脱する(けど、その場を離れずカードを隠すなどゲームの邪魔をする)とか、子ども達より大人に構ってもらいたがる(恐らく大人は気持ちを汲んでくれるから)、私が息子の要望にNOと答えると怒り出すなどなど…
そしてどんなに言葉を尽くして、「息子にやりたいことがあるように、お母さんにもやりたいことや用事があるの」と伝えても、何百回と「(相手に何かしてしまった時に)同じことされたらどう思う?」→「嫌な気持ち(答えはいつも一緒。語彙力!)」→「じゃあやっちゃダメだよね。(正しいやり方)をしようね。」という会話を繰り返しても、1/3どころか1mmも伝わってる手応えがありません(純情な感情はいつも空回り!)。
長くなってしまいましたが、息子のようなケースではどういう指導が適しているんでしょうか。「あなたはこう思う。けど相手はこう感じている。」を繰り返し繰り返し、成長を待つしかないのでしょうか。いつか記事にしていただけたら嬉しいです。
すごく分かりやすくて、これ実践できそうです。
ありがとうございます!
京大の著名なゴリラ研究者である山極寿一先生の言葉に、「700万年の進化の過程で、人間は高い共感力を手に入れた。他者の中に自分を見るようになり、他者の目で自分を定義するようになった。一人でいても、親しい仲間の事を考えるし、隣人達の喜怒哀楽に大きく影響される。」とあります(書籍 ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」)。共感力は能力で、きちんと扱えるようになったら、人間社会で生きていくのに役に立つ力です。でも、一部のみ強すぎる能力を使いこなすのには、他の部分を含めたそれなりの成長と、失敗も含めた経験が必要です。
みんなが嬉しいと我が事の様に自分も嬉しいので、頑張りすぎてしまう子。相手が悲しいと相手の悲しみがそのまま伝わって、悲しませた自分を責めてしまったり、悲しむのが正確に予測できてしまうので、相手を悲しませる言動を我慢しすぎて、辛い子。相手の感情を、しばしば相手が自覚する以上に読み取ってしまうのは、本人の性質ですね。
敏感で周りの人達の気持ちに配慮しすぎて動けなくなる子には、自分の感情を優先させる事、「私の人生の中では私が主人公(さだまさし 主人公 より)だよ、あまり相手の気持ちが見えない普通の人たちは、当たり前の様に、こんな風に思って生きてるよ。周りの人の気持ちがあなたほどわからない普通の人が、自分の気持ちのままに動くのは当たり前。あなたもあなた自身の気持ちを大事にしてあげて」と繰り返し教えていくのもいいかも知れませんね。
すぐには納得できなくても、自分が苦しいのは人より大きな能力を持っていて、それがまだ使いこなせないからだと思うだけでも、前より楽になれる気がします。
欠点のない顔立ちはないし、美醜の判断基準自体曖昧なものですが、私は、せっかく自分のもとに生まれて来てくれた子には、家では繰り返し、かわいいねと伝えて育てたい。同じ様に、持って生まれた性質なら、プラスの意味づけをして、本人に繰り返し伝えてあげたいです。ただでさえ、HSCは年齢不相応なくらい自分を客観的に見て、勝手に自信喪失しちゃう様に見えるので。私はP先生の様な専門家では無いので、あくまでも周りの少数の限られたサンプルからの観察(だからP先生のHSC記事はとても勉強になります)と、個人的な育児ポリシーですが。
HSCのお母さん達はHSP多そうなので、P先生の記事で勉強しつつ、他のもっと大変そうなお母さん達の書き込みを見て、自分の事は書き込まない人も多いのかなと思います。真面目で友達多くてキラキラしている様に見えていた子が、ある日いきなり学校行けないと言い出したら、親も辛いですが。自分が無意識に子供に無理をさせてたなとかも思うので、誰かに訴えたい気持ちも強くないのかもしれませんね。
ASDの小学生の娘がいます。
友達とトラブルがあった時、まさに
「あなたがお友達だったら同じ事されたらどう思う?」と私はよく言ってました。
娘はその度に首を傾げてこう言うのです。
「別に何とも思わないけど」
なんて人の気持ちがわからない子なんだろう?とずっと不思議でしたが、その後ASDの診断がおり、今P先生のブログ見て更に腑に落ちました。
なるほど、そういう感じで伝えるとわかりやすいんですね。