発達障害か、愛着障害か

発達障害という概念は、だいぶ市民権を得ているように思う。

気になる子がいると、「発達障害かしら?」と疑う大人は多い。

受診を促すことになる。

 

これが、近年の発達障害爆増の理由だと思っている。

疑わないことには、診断はつかないからね。

いいことだ。

 

 

そして、次のステップ(というのか?)として。

愛着障害という概念が広がりつつある。

 

愛着障害

 

愛着障害とは:

乳幼児期に、何らかの原因により母親や父親など特定の養育者との愛着形成がうまくいかず、問題を抱えている状態のこと。

 

一般的に、人は乳幼児期(2〜3歳頃まで)に養育者(多くは母親)と安定した関係を作る。

でも、これができなかった人がいる。

すると、生涯にわたり様々なトラブルがつきまとう。

情緒不安定、対人トラブル、鬱、依存などなど……。

 

 

親子関係は、対人関係の基盤となる。

ここを安全基地として、子どもは外の世界に出ていく。

盤石な親子関係があるから、広い世界に冒険に行けるのだ。

 

ここが『変』だと、外の世界も『変』になる。

いや、外の世界は変わらないんだけどさ。

その子が『変』なフィルターを持つからさー。

『変』なフィルターを通して見るのは、『変』な世界だ。

 

 

一見すると発達障害の人で、「実は愛着障害でした」というケースがある。

不安定な愛着から『変』な行動を起こしているだけで。

その子の発達デコボコの問題ではないケース。

 

だから、投薬しても効かないし。

アドバイスも的外れだったりする。

 

発達障害と診断されている人の数パーセント、いや数十パーセントは、実は愛着障害なのだろう。

見分けが非常に難しい。

 

発達障害と愛着障害

例えば、愛着障害の中に、

  • 落ち着きがない
  • ぼーっとしている
  • 多弁・多動
  • 誰にでも積極的に話しかける

といった特徴を持つ子がいる。

 

人見知りなく誰にでも接近し、かと思えばちょっとしたことで攻撃的になる。

わざと人の嫌がることをして、反応を見る。

 

え、コレ、まんまADHDやん。

 

愛着障害の中に、ADHDそっくりの行動をとる子がいるのだ。

 

 

また、

  • 周囲に無関心
  • こだわりがつよい
  • 言語の遅れ
  • 常同行動

といった特徴を示す愛着障害もいる。

人との関わりを避け、一人を好む。

 

え、コッチはASDじゃん。

 

愛着障害の中に、ASDそっくりの行動をとる子もいる。

 

 

見分けは、大変に難しい。

他の先生方には分かるのかもしれないが、僕には正直分からない。

何冊も本を読んだが、やっぱり分からない。

 

生育歴に問題があれば、発達障害より愛着障害を疑う。

 

そーなんだけどさ。

ベースに発達障害があると、育てるのが大変で、生育過程で色々起こりやすいわけで。

 

さらに、子どもが発達障害なら家族、親族もその可能性が高いわけで。

発達障害だから養育環境が破綻した可能性は絶対にある。

 

親が(子も)発達障害だから → 養育環境が破綻した

ってケース。

この場合、問題の本質は、生まれつきの発達特性なのか、生育環境なのか。

どっちが優位かというと、正直わからん。

 

 

発達障害って決めつけないで!

愛着障害かもよ!!!

 

そーなんだけどさぁ。

 

どうやって見分けるんだろう。

本人(または親)は、「養育環境に問題はありません」って言うけどさ。

実際そうなのかは、ブラックボックスじゃん。

 

家庭内のことって、客観視しづらい。

自分では普通と思っていることが、一般的には普通じゃない可能性も、全然ある。

 

今の日本で、

「自分の親はクソです(患児側の視点)」

とか

「この子の養育環境はクソでした(親側の視点)」

とか言うのは、非常にハードルが高い。

 

男の子
親は一生懸命育ててくれました。

 

私は精一杯子育てを頑張りました。

 

って言うに決まってる。

 

これ、本気でそう思っている。

相当アレな養育環境でも、実際そう思い込んでいる人が大多数だろう。

 

 

逆に、かなりきちんと育てたのに、

 

私の育て方が悪かったんです。

 

とか。

 

恵まれた環境なのに、

 

女の子
全部親のせいだ!

 

なんてケースもある。

 

 

養育環境って、客観的な評価と、主観的なそれとが一致しないケースがめちゃくちゃある。

自分の家庭しか知らないから。

 

僕も当事者だ。

よくわかる。

 

どっちでもいい

だもんで、僕には見分けがつかない。

かなり典型的な「コッチ寄りかな」ってケースでも、僕は自信を持って「発達(愛着)障害です」とは言えない。

医療者としてダメなのかもしれないけど、でもこれが偽らざる本音。

 

わからねぇ。

 

 

なので、僕はあまり気にしないことにしている。

考えても、どーせ僕には分からないし。

 

エピソードを組み立てて、表題(愛着障害or発達障害)をつけることはできるだろうけど。

なーんか気持ち悪いんだよね。

僕の組み立てたエピソードがどこまで正確か、分からないし。

聞き取った情報が合っているか確認のしようがないし。

僕の主観も入るしね。

きっと、かなり間違ってる。

 

 

だから僕は、この区別はあまり気にしない。

それより、この子自身を見ていきたい。

 

  • どんな考え方で、どう困るのか。
  • この行動を起こした理由は何か。
  • どこまで理解し、どこは分かっていないのか。

 

発達障害か愛着障害かという大きなくくりにこだわるより、個々のケースで目の前の事象を見ていく方が、性に合う。

その原因が発達障害でも愛着障害でも、僕はどちらでもよい。

 

何度も「僕は診断にはこだわらない」と書いているが、その理由の一つがコレである。

僕自身、自称ASDだが、実は愛着障害の可能性も十分にあって。

自分でもよくわからない。

でも現状、特に困っていないので(周囲にもさほど迷惑かけてない)(多分……)、これでよいと思っている。

 

まとめ

 

愛着障害と発達障害は、非常によく似ている。

 

見分けは難しい。

特に、月に1回短時間会うだけの医療者の立場では、見分けるのは困難だと思う。

 

でも、とっっっっっても大事な概念。

自分、もしくは近しい立場の人が、「どっちなんだろう?」という視点で考えることは非常に有用。

 

さて、あなたはどっちでしょうか。

その子はどっちでしょうか。

pediatrician-p

View Comments

  • 「その子をよく見る」とても大切な事だと思います。そして、よく2人の息子に「お母さん、何時代?昭和?平成?令和?」と言われます(笑)いろんな事が、古いらしい…。アップデートが必要のようです。

  • 発達障害か愛着障害か、『見極めは困難。でもとっっっても大切な概念だからしっかり考えることは大切』
    『それより、この子自身を見て』
    100回読みます。悩むたび思い出します。ありがとうございます。

    発達障害と診断された息子の母です。
    もしかしたら息子の玉には問題はなく、母である私の対応のせいで息子が困り事を抱えているのかもしれない…と、沢山悩みながら、試行錯誤の毎日です。

    試行錯誤した上での対応も結局は間違っているかもしれない…と、日々ネット上のどこかに息子と同じパターンの人を探して、彷徨っています。

    でも結局、どちらにせよ、目の前の息子をしっかり見るしかないんですよね。ライフハック的な対策なんて存在しない。

    発達障害と二次障害の区別というか線引きも難しいなぁと感じております。息子が何に困っているのか、どこまで理解しているのか…ネットではなく、息子の玉を見ます(下ネタではなく)。
    いつもありがとうございます。

  • p先生、いつもありがとうございます。

    不登校の小5男子、行きしぶりが始まった2年生くらいの時に相談したところで、「上の子(凸凹あり)ばかりに、お母さんがかかりきりになってたから、この子がこうなったんじゃない?」みたいなこと言われました。

    ショックでした。でも今さら言われたって、どうせいと?←その部分は大抵指導してくださらない。

    p先生の「それより、この子自身を見ていきたい」の言葉に、そう!それ!!欲しいのはそれ!!と激しく首を振ってしまいました。

    親の関わり方がよくない、にしても
    結局「玉」なんじゃないかなって、思います

    実際のp先生に会えたとしても、診察時間短いから、難しいんだろうなぁ

    これからもブログ、楽しみにしています

  • いつも、本当にありがとうございます!
    以前、コメントで愛着障害について質問させて頂きました。

    多分、そこまで酷い事をしてはない、、と思うのですが、私自身も恐らくそれなりに特性があり、初めての育児でいっぱいいっぱいの中、周りから(ママ友などではなく、園や学校、時に医療機関など)の言葉に翻弄され、更に余裕を無くし、愛着形成にマイナスとなるような言動もあったように思います。
    信頼できる主治医の先生にかかれるようになり、P先生のブログ等などで少しずつ自分の軸も定まり、冷静に考えられる時間もちょっと出来てきて、発達障害+愛着障害合わさってるんだろうな〜、と思うようになりました(←子供のことです。私は多分、発達特性と軽い二次障害?)。
    親にも特性、子にも特性、そこにペリー、、となると、よほど特別な人や環境でないと、親も追い詰められる→愛着の問題を生じる、というリスクがあるように思います。
    先生のように、虐待レベルでなくても「こういうこともあるよ」と発信して下さる方が増えると、早い段階で気付いて軌道修正するチャンスがでてくるのではないかな、と思います。
    そういう意味でも、「その子をよく見る」ほんとに、何はともあれ、ですね。
    これからも楽しみにしています!

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