Categories: 起立性調節障害

メトリジン効かない問題、飲まない問題

起立性調節障害の治療薬といえば、親玉は『メトリジン』だ。

薬を使うなら、まずこの『メトリジン』が処方されると思う。

起立性調節障害界の横綱みたいな薬。

薬効はざっくり、起立時に重力で下半身に溜まってしまう血液を、全身に送り出すイメージ。

だらけてしまう血管と心臓を頑張らせるイメージの薬だ。

で、このメトリジン。

まぁ効かないこと!

すみません。薬は悪くないし、もちろん製薬会社さんも悪くない。

効く時はすごく効くんです。

辛い症状がめちゃくちゃ楽になる人がいる。

これはプラセボ効果(「薬を飲んだから治るはず!」というポジティブな思い込みによって、実際に症状が良くなること)ではなさそうだと思っている。

実際に効いた子の様子をみて、臨床的にそう思う。

でも、効く子はそう多くない印象。

僕の外来では特に。

飲んでみたけど、よくも悪くも何も変わりませんでしたっ! という子が多い。

副作用もないが、効果も実感しないと。

なぜか。

僕の考えだが、きっと薬の効果はある。

のだが、それ以上に本人のメンタルの要素が強いのだろうと思っている。

精神的に参っている子ほど、効果を感じないようだ。

ちょっとした悩み程度なら、少しでも効果が出る気がする。

メンタルの要素が強い子は、交感神経をオンにするスイッチが硬いイメージを持っている。

電気のスイッチのように、交感神経(頑張る)と副交感神経(リラックス)がパチっと変えられるのが健康とすると、起立性調節障害の子は、そのスイッチが錆びついて硬い。

大きな悩みがあったり、学校に行きたくない思いが強い子(無意識でも)は、スイッチが超硬い。

なかなか切り替えられない。

で、メトリジンは、スイッチを軽くする効果を持つ。

錆びたスイッチに油をさすイメージ。

それでスムーズに動く子もいれば、ガチガチに錆びついて焼け石に水のことも。

こうなると、いくら薬を飲んでも全然効かない。

それよりメンタル面をケアしないと解決しないのだろう。

これが『メトリジン効かない問題』の原因だと思っている。

僕の外来は『発達外来』と冠がついているので、起立性調節障害の中でもメンタル要素の大きい子が集まってくるのだと思う。

メンタル要素の関与しない、『純粋な』起立性調節障害の子には、メトリジンが効く。超効く。

そんな子は、一般小児科へ行く機会が多そうだ。

僕の外来が特にメトリジンの効果を感じないないのだろう。

だから、メトリジンが悪いのではないのだけれど。

とりあえずしばらくメトリジンを使ってみて、効果がなければ中止している。

でも飲むとちょっと調子がいいとか、あまり効果は感じないけど飲んでおいたほうが安心とか、患者さんが希望される場合。

そんな時は、処方を継続する。

で、こんなふうになったとき、注意して観察ほしいことがある。

毎回処方はするけど、実際は飲んでいないことがあるのだ。

受診時は、本人が処方を希望する。

「なんとか治したい、少しでもよくなりたいのでメトリジンをください」と言う。

でも、家に帰ると全然飲まない。

なぜか。

きっと、病気が治らない方が都合が良いのだ。

『疾病利得』という。

病気が治ってもらっちゃ困るのだ。

せっかく病名がついて、この症状もサボりじゃないと証明できた。

病気と言われて内心ホッとしている。

なのに病気が治ったら、また学校に行かなくちゃいけない。

学校しんどい……。

無意識に、そんな風に思っている。

病気を隠れ蓑に、お休みしたい。

これが『メトリジン飲まない問題』の正体。

そしてそんな時期ってあると思う。

悪いのは病気で、自分の怠慢ではない。

自分を責めずに、少しゆっくり休みたい時期。

そしてこれは無意識だ。

本人は、早く治ればよいと本気で思っている。

正確には「治したい」と「治すべき」の区別がついていない。

自分は治したくない、でも社会的には治すべきと理解している。

この矛盾に気づかず、自分は本気で治したいはずと思っている。

治ればちゃきちゃき登校でき、思いっきり活躍できると本気で思っている。

だから、内服しないことは指摘しないでほしい。

「治したいならちゃんと薬を飲みなさい!」

正論だけど、本人は受け入れられない。

治ったら学校にいかなくちゃいけないのに。

じゃあなんで学校がしんどいのかという、本質的な部分とはまだ向き合えない時期だ。

病気という隠れ蓑を剥がさない方が良いと思っている。

だから、親御さんにお願いしたい。

処方された薬を、本人が積極的に飲むか、そっと観察してほしい。

飲まなければ、まだ治したくない時期だ。

「お薬置いておくからね」と優しく告げる程度でよい。

実際に飲むかは、本人次第。

飲まないなら特に指摘せず、受診時に僕にそっと告げ口してほしい。

「全然クスリ飲んでません」って。

起立性調節障害は突然発症したように見えるが、ベース(特にメンタルの部分)は長い時間をかけて構築している。

治るのにも時間がかかるのが普通なので、そういうものだと思ってゆったり構えていただけると嬉しい。

pediatrician-p

Recent Posts

鉢ごと移動しろ! 詳細

  合う場所で咲けば…

4週間 ago

ぼくのかんがえる「さいきょう」のはったつしょうがいりろん

結局この子には、発達障害がある…

1か月 ago

発達特性と山 〜特性は標高で考える〜

発達障害は、山に似ている とい…

2か月 ago

医者って、30分の診察で発達障害がわかるものんなの?

発達外来の初診。 これまでの経…

3か月 ago

子どもがうまく育っているサイン

興味深い議題だ。  …

3か月 ago