字が汚い。
小学生だと、連絡帳はとりあえず読めない。
漢字の書取りとか、板書とか、めっちゃ苦手。
苦手というか、むしろ書く気がない。
こんなの、書く意味がわかんない!
書字が苦手。
書きたくない。
学習障害ってわけじゃない。
書字障害との違いとして、この子たちはやる気を出せばそれなりに読める字が書ける。
でも続かない。
能力はあるんだけど、やる気のなさが大きい感じ。
※書字障害は、頑張っても書けない。やる気とかそういうレベルの話じゃない。
でも学校というのは、得てして文字を書かされる場所でして。
書かざるを得ない場面というのがあってですね。
書いてはみるんだけど、超やっつけ!
親御さんが持ってきたノートを見ると、なるほど確かに。
読めねぇ。
全然読めねぇ。
書いてある内容はさっぱりだけど、
「無理やり書かされたけど、オレはやる気ないんだ!
ハイ書きましたー書きましたよー。
これで文句ないでしょ!!!」
という投げやりと不満とが渾然一体となったような、えも言われぬ熱量だけはビシビシと感じる。
僕個人的には、字なんてどーでもいいじゃんパソコンあるし! と思って生きてきた。
だから字のきれい・汚いに注目したことはなかったんだけど。
でもこの仕事をして実感した。
字って結構、壁として立ちはだかるものなのね。
大人になれば、文字を書く機会ってほとんどなくなる。
例えば僕も字がとんでもなく汚いんだけど、気づかなかったでしょ?
そう、パソコンで打ってるから。
仕事でもプライベートでも、文章はパソコンかスマホで入力する。
ひどい手書き文字を人様に晒す機会は、まずないわけだ。
でも、小学生諸氏はそうもいかない。
ノートに書かされる。
書かないと叱られる。
学校には、
「ノートにきれいに書いた」イコール「頑張った(努力した)」
とみなされる文化がある。(これの是非については言及しない)
なので、どれだけ理解していても、脳のメモリーに刻み込んでも、ノートが真っ白なら「勉強してないなこのヤロー」という評価を下されてしまうのだ。
小学生だって人間だ。
叱られるのは嫌だ。
だから、渋々ながら書く。
嫌々書く。
でも納得していないので「納得してない字」になるし、やる気ないので「やる気ない字」になる。
で、せっかく書いたのに結局叱られるって寸法。
字が汚いからイコール勉強できないかというと、その限りではないことはご理解いただけると思う。
僕個人の経験では、とんでもなく賢い人の字がとんでもなく汚かったことが多々ある。
むしろ 天才=字が汚い というイメージすらある。
彼らの字はなぜ汚いのか?
能力がないわけじゃないのに。
ここを分析してみる。
外来で、たくさんの小学生に字を書いてもらっている。
汚い子も、きれいな子もいる。
で、この子たちに知能検査をする。
すると、なんとなく傾向が見える気がする。
字が汚い子:考えるのが得意
字が綺麗な子:作業が得意
もちろん例外はたくさんある。
なんとなく上記の傾向が強いかなーという程度だけど。
中でも特に字のきったない子たち。
ミミズが這ったの?
何かの暗号?
むしろロールシャッハ? ってレベルの子。
↑ロールシャッハってコレね。
何にも見えないし、何にでも見える気もする。
蝶にもコウモリにも見えるし、ダンスする人にも見えるし。。。
まさかこのノート、解読者の深層心理を試しているのか……? みたいな字。
どこまでが1文字なのかも分からない。
書いた本人ですら解読できない。
そんな子のWISCを見ると、こんなタイプのことが多い。↓
(図はお借りしました)
頭はいい。
理解良好。
考えるのが得意な子たちだ。
だけど、比較して作業が苦手。
分かっているハズなのに、実際に手を動かしてみるとアレ? ってタイプ。
口は達者だけど、テストをしてみると案外点数が取れなかったり。
僕の想像だけど、頭の回転に対して字を書くのが遅過ぎるんだと思う。
想像してください。
なにか物事を頭の中で考えるのと、文字に書き起こすのでは、どちらが速いですか?
そう、頭の方が速いに決まってる。
能力に凸凹のないフラットな人でもそうだろう。
ましてや上記の人たちは、その差が広がる。
考えるのが得意で、頭の中の思考は充実している。
でも作業速度が遅いし、加えてワーキングメモリーの低さから「アレ? 今何を書こうとしてたんだっけ?」ってなる。
頭の中は高速で働いている。
でもそのスピードに、書字が追いつかない。
文字を書くなんてまどろっこしい作業をする意味が分からない!
で。
意味わからん!
という発言に至るのだと思う。
対して、字のきれいな子。
WISCを取ると、こんな感じのことがある。↓
(図はお借りしました)
考えたり理解するのと比較し、実際に手を動かす方が得意。
このタイプは、頭の中での思考と、紙に書き出す作業時間とに、タイムラグが少ないのだと思う。
だから考えながら一緒に手を動かすと、思考が整理できる。
目に映る手書き文字のスピードと、頭の中の思考スピードがほぼ一致。
きれいに書くことで達成感も得られるし、思考も整理できて一石二鳥!
実際、コツコツ真面目に勉強する優等生タイプのことが多い。
このタイプには学校教育がよく合っており、努力が認められやすく、成績に反映されやすいと感じる。
惚れ惚れするような字を書くし、ごめんだけどテスト前にノート貸してください!
以上、僕の分析と考察。
エビデンスはないので、違ってたらごめんなさい。
※こんな話を書くと、「ウチの子はワーキングメモリーだけ低いんだけどどうなんだ」とか「処理速度だけズバ抜けて高いけど字が汚い」とか質問したくなる方がいらっしゃると思うけど、ご容赦ください。個別の例ではわかりません。全体としてこんな傾向がありそうってだけです。
僕の分析が正しければ、字が汚いイコール勉強する気がない、わけではない。
むしろ知的好奇心が強い子も多い。
追いつかないんだよ、思考が早すぎて。
「書く意味がわかんない」という子は、その言葉通り「書く意味がわかんない」んだと思う。
だって、思考をまとめるのに書字という作業は邪魔でしかないから。
頭の中で考えたほうが、ずっとずっと効率がいいから。
そんな子に無理やり字を書かせる必要は、僕はないと思っていて。
書かなくていいよ。
漢字は、書いてもどうせ覚えないよ。(視覚的に図形として覚えるから)
途中式は、最終的な答えがあっていればそれでヨシとしてやってほしい。
あとはパソコンやタブレットを使うとか、板書は必要なら写真に撮るとか、工夫してあげて欲しいなーと思う。
僕もめっちゃ字が汚いから、なんとなく分かるんよ。
せっかく頭に浮かんだのに、書字(タイピング)が追いつかなくてポロポロこぼれ落ちる感覚。
僕も多分、思考に対して作業が遅い。
いいこと思いついた! と思ったのに、文字にしようとしている間に逃げて行っちゃうことがよくある。
すげー喪失感。
ブログを書いていてもしょっちゅうある。
もし僕のタイピングがもっと速かったら、このブログは抱腹絶倒の素晴らしいものとなり、週刊少年ジャンプくらいの発行部数になっていただろうに実にもったいない。
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めっっちゃんこ字が汚い小学生男子の母です。題名を拝見しただけで、ウチの話だ〜と嬉しくなりました。
ウチの息子、WISCはどの項目も120台で凸凹なしなのですが、ADHD不注意型の特性が邪魔しているのか、板書が半端なく遅い上に汚くて、ノート真っ白で帰ってくることもしばしば。今は支援員さんが付いてくださっているのですが、最近は支援員さんの字がノートにビッシリで、一体誰のノート???っていう感じです。
ここ半年ほど作業療法士さんに毎週通って、書き方や手先の訓練をしていますが、一年訓練してみてパソコンでの書字に切り替えるか判断することになりそうです。まさにウチも作業療法士さんから「頭の回転に手がついていかないタイプ」と言われました。
ウチはアルファベット圏に住んでいるので最悪宿題は口頭で出来る(綴りを暗記する宿題も書き取りではなくアルファベットを読み上げさせて親が聞いてチェック)のですが、日本の漢字練習はそういうわけにはいかないので、書字が苦手な子にとっては辛いだろうなぁと思います。我が家は日本語の勉強は早々に脱落しました。。
いつも楽しく拝見させて頂いております。
P先生の分かりやすい例えに、いつも「なるほど~!」と納得させてもらってます。
今回の記事は、我が子に当てはまる内容で、「そういうことだったのか!」と、ストンと落ちました。
小学校入学時の検査で、言語理解131 知覚推理132 ワーキングメモリー120 処理速度96 だった息子。
学校の教科はどれもよくできていたし、ノートの字はそれほど綺麗ではないですが(書写のときは賞をとります)板書も速さに間に合ってるし…それほど困ってる感じではなかったのですが、算数の途中式や筆算だけは何度言っても書かない!
今年、中1になりましたが、小学校は担任がどの教科も見るし、どの教科もいつも満点とれてたので何も言われることがなかったですが、これからは教科担任制だから、ちゃんと途中式を書かないと答えをうつしたと思われるよーと心配しておりました。
『頭の回転に対して字を書くのが遅過ぎる』んですね。
確かにそうかも…筆算書くより、電卓打つより、暗算の方がダントツに速いです。書く必要が無いから無駄な作業と思うんですね。宿題も「こんな作業…時間の無駄や」とブツブツ言いながらやってます(ご多分に漏れず真面目です。決まりは絶対守ります)。
P先生のこのブログが書籍化されて、学校の先生が読んでくれたらいいのになー
こんなに頭をつかわず、素人がサラッと読むだけで、なるほどー!って楽しく理解できる記事、他に無いですもん。
P先生みたいに理解のある学校の先生が居たら、親もくだらないことに悩まず安心して通わせられるのになー
「投げやりと不満とが渾然一体となったような、えも言われぬ熱量」、すごくわかります。周りの見える真面目な子って、本当は教師を尊敬したいし、慕いたいし、信じたいと思ってるんですよね。教師の都合でしかない物を強制されて、教師に対する不信感や、それを拒否できない自分の境遇まで思考が一気に飛んじゃうと、ドロドロ色んなものが渦巻いちゃいます。
我が子は、宿題はともかく、授業中の板書は、教科書よりまとめられて書く価値があると思えば、それなりにきちんとした字でノートに書きます。学校に来れなかった友達にノートの画像を頼まれたら、いそいそと学校カバンを開けてます。
我が家の場合は、まず子供の反発の背後にある、本当は先生を尊敬したいと言う無言の思いに、言葉にはせずに共感してます。どうしても無理と思う宿題については学校にご相談しつつ、ついでに学校教育の中で子供がよかったと思った事を伝えてます。後は学校が友達といる楽しい場所だと子供が思える様、学校に関する家の中での雑事は、できるだけ積極的に私が引き受ける様にしてます。
カルテも電子カルテの時代になったから、字を書くことは減り、処方量の数字が1?7?とか5?6?とか読み間違うことはなくなりました。
(独身時代、動物看護師で獣医の読めない字の解読に苦労しました。)
でも先日息子の入院手続きしてきましたが、サインの必要な書類が何枚も。
名前だけじゃなく住所が必要なものも複数枚。
新学期には学校提出書類が山のよう。
読める字が書けないと、病院や学校が困ってしまいますね。
これらが手書きじゃなくなるのは、まだまだ先じゃないかな?
娘は賞を取るような綺麗な字ではないが、ハネとかめっちゃ強調した丁寧な字を書きます。
でも、処理速度だけ凹なので、漢字の書き取りの宿題終わりが見えません。
本人字が汚いと思っていて、意識して書くからそうなるのですが、もう少しいい加減な字でも良いのに。
それに対してワーキングと処理速度凹の息子は算数のテストでもあっているのに×になるほど字が汚い。数字すら読めない(読み間違う字)いい加減な性格が現れてます。
特性上の傾向もあるけど、本人の意識も影響すると思います。
そして減ってはいるけど、字を書く必要性は、まだまだ残っています。
やっぱりそうだ!いままで私が密かに思っていたことが書かれていました。でもそんなこと言うと字が汚い言い訳と言われてしまいそうで言ったことはありませんでした。うちの中二の息子は字が汚くて本人も読めないことはしょっちゅうで、小学生の時は連絡帳が読めなくてママ友に確認したりよくしてました。いまももちろん汚いですが数学だけが通知表で5です。やたら数学が昔から得意で、暗記系はかなり苦手なようですが。バランス悪いなーなんて親としては思っていましたが、先生のブログ読んで、なんか納得できたのでらあまり息子に注意しないようにします。
とても興味深いお話でした。
中二の息子も、ノートや連絡帳は何度言っても書かず、書いても解読不能。
かと思うと、書き初めでは段持ちか!?くらいの習字を披露してくれたり…。
模写も天才的に上手です。
頭の回転が早く、授業を受ける意味がわからないと絶賛不登校です。
得意なこと、好きなことをどんどん伸ばして笑顔で生きて欲しいと思っています。