無理なら逃げよう。
コップの水を溢れさせよう。
ってずっと言ってるんだけど。
外来で見ていると、なかなかコップを溢れさせず、その場所ややり方に固執してしまう子がいる。
第三者である僕から見ると、明らかにその場所が向いていない。
別の方法を探す方が圧倒的に早い。
なのに、本人はその判断ができず、同じ失敗を繰り返してしまう。
不登校の子。
不登校なんだけど、かなり真面目で、自分で目標を設定する。
毎回あれこれ目標を立てるんだけど、案の定、出来ない。
まぁ、そりゃそうよな。
本人は「行きたい」と「行くべき」の区別がついておらず、本音は「行きたくない」のだから。
なぜ行きたくないのか、どんな場所なら行けそうかを考えないと前に進めるわけがない。
で。
やっぱり行かないんだけど、その都度ヘコむわけです。
しかも盛大にヘコむ。
「決めたのに……出来なかった……。」
「みんながやっていることが自分にはできない。」
「自分はなんてダメなんだ。」
いやいや学校が合わないんだから、その場所に戻るより別の道を探した方が早いよ、と思う。
なぜ行けないのか、行けない理由に目を向けようよ!
はたから見るとそう思うんだけど。
でも本人はその判断ができない。
「次はこうする」と「出来なかった……」を繰り返し、自分がいかにダメか確認しているようにすら思える。
そんな傷つき体験を重ねるより、さっさと逃げようよ。
とりあえず休学するとかさ。
まず一旦休んで、そこから考えればいいじゃない。
僕にはそう思える。
不登校の例を出したが、他のことでも判断が遅いことはままある。
「次のテストは絶対にがんばる」→「ダメだった……」
「いじめっこに言い返す」→「ダメだった……」
「分からない問題は先生に質問する」→「ダメだった……」
まぁ無理よなという内容にこだわり、同じ失敗を繰り返す。
WISCⅣ(よくある知能検査)に、『処理速度』という項目がある。
課題を素早く正確に処理する能力だ。
この高低、僕は診察室でも結構わかるようになってきた。
「名前は?」
「…………(えっと)……(なまえ)……(あ、名前ね)…………(名前って苗字? 名前?)……(両方?)……あがつま、ぜんいつ……です。」
「名前」
「(食い気味に)あがつまぜんいつ!」
前者が処理速度がゆっくりな例、後者が速い例だ。
処理速度がゆっくりな子。
この子たちは、同じ失敗を繰り返す傾向があるように思う。
失敗した→じゃあこの部分を変えてみよう
この切り替えが遅いのだ。
失敗した→失敗した→失敗した→自分はダメだ→自分はダメだ→ダメな自分じゃダメだ→次はがんばろう
こんな感じ。
でも具体的に何をどう頑張れば成功しそうか、その思考がゆっくりなので、同じようにトライして同じように失敗する。
見ていてやきもきする。
見ているとやきもきするので、手も口も出したくなる。
鱗滝さんならブチ切れだ。
「こうしたらいいでしょう」
「これじゃうまくいかないに決まってるでしょう」
「妹が人を喰った時やることは二つ。妹を殺す、お前は腹を切って死ぬ」
気持ちはわかる。
でも、待つしかないと思っている。
処理速度がゆっくりな子。
外から判断を与えても、真にその子のものにはならない。
ゆっくり、時間をかけて、本人が納得していくしかない。
同じ失敗を何度も繰り返し、脳に叩き込むしかないのだろう。
失敗した
↓
じゃあここが違うんじゃね?
↓
別の方法を試してみよう
ここまで至るのにめちゃめちゃ時間がかかる。
鱗滝さんならブチ切れてる。
僕が鱗滝さんじゃなくてよかった。
その子の持って生まれた処理速度ってある。
ゆっくりな子には、ゆっくりなペースが合う。(だからこそ学校のペースについていけず学校がしんどくなりがち)
見方を変えると、その子は失敗をじっくり味わっているように思える。
失敗も成功も、何度も反芻してじっくり味わう。
そうやって、ゆっくりじっくり味わうのがその子の人生だ。
わざわざ特急列車に乗せなくて良いと思う。
大人がその子の人生を奪ってはいけない。
失敗させてあげてください。
助言はしてもいいけど、本人が真に納得するまでは、待つしかない。
そういうペースの子で、そういう楽しみ方の人生だ。
ちなみに。
処理速度がゆっくりなんだろうなぁと思う親御さんも、結構います。
それで、悲しくて……。
感情論がメインで、「じゃあどうするか」という話になかなかならない。
解決策を提示しても、入らない。
正論に対してデモデモダッテしがち。
答えは分かっているんだと思う。
でも、真に納得できないと先に進めない。
そして納得するまでに時間がかかる。
親御さんにも親御さんのペースがあって、ゆっくり人生を味わう権利がある。
こんな親御さんの話を傾聴するのも、僕の大事な仕事だと思っている。
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はじめまして。まさに自分の事のようです。仕事の覚えが悪く同じミスを繰り返してしまいます。その為に転職回数も多くて困ってしまいます。言語理解だけは高いせいか、説明上手とは言われます。
いつも興味深く拝見させて頂いております。話が軽やかで楽しく読めるので、途中で疲れてしまいがちな私にとって最後まで一気に読み切れる数少ないブログです(o^.^o)
この記事を読んで、小6で不登校中の息子は処理速度の遅い子なんだなと感じました。登校の目標を立てるけど実行できない。小学校以外の選択肢は全て却下。と言うか拒絶。今も修学旅行に「行く」と決めてるように話すものの、何一つ準備に取りかからない状態です。出発は明日なのに…。行かなくても良いんだよと伝えても「行く」の一点張り。お土産は買いたいと言うから部分参加もありだよとも伝えてあるけど「普通に行く」の一点張り。私は本当は行きたくないんじゃないか、じゃあなぜ辞めると言わないのか、言葉通り行きたいなら準備はどうするのか、気になって仕方ありません。言わないようにしていますが、とても敏感な子なので私の心の中は丸見えだと思います。
息子が急に準備を始めるか、辞めると言うのか、何もしない何も言わないまま修学旅行の時間が通り過ぎていくのか…。
『外から判断を与えても、真にその子のものにはならない。ゆっくり、時間をかけて、本人が納得していくしかない。』
息子が選んだパターンを受け止めるしかない、ということですかね…。
こんなふうに分析して分かりやすく解説できる先生がすごいと思います…
本人でも、大人になっても分からないし気づけないんです。
たまに他人を見て、こうすれば(しても)いいのかって当たり前のことに気づくこともあります。
自分のことや息子のこと、発達障害も分からないことだらけですが、いつもこの記事で頭がスッキリして少し納得できるのです。
はじめコメントさせていただきます。
いつもじっくり拝見させていただいてます。
うちの息子は中3で、処理速度のみ他より50ほど低いwiskの値になっています。
「失敗も成功も、何度も反芻してじっくり味わう。
そうやって、ゆっくりじっくり味わうのがその子の人生だ。
わざわざ特急列車に乗せなくて良いと思う。
大人がその子の人生を奪ってはいけない。」
ぐっときました。
子供を見ていると将来が不安になってしまう時がしばしばありますが、そのときにはまたこの言葉を思い返したいと思います。
処理速度2の記事も楽しみにしています。