再三言っている、「お子さんをそのまま受け入れてあげてください」。
これ、なんのためって『二次障害』を起こさないため。
これに尽きる。
『二次障害』って何かって、本当はそんな子じゃないんだけど、周囲の接し方のせいで新たな問題が起きること。
元来の性質以上に困った状態になること。
極論すると、二次障害さえ起こさなければ、その子を受け入れなかろうがこき下ろそうが無理やり登校させようが、別にいいと思っている。
二次障害さえ起こさなければーーーーー。
例えばこんな子がいた。
自閉スペクトラムの小学生。
知的に高く、診察室では好きな仮面ライダーの話を延々したり、緻密な迷路を書いたり、置いてあった時計を分解したり。
興味のあることに目を輝かせている印象だった。(あとで分解された時計を僕が直すんだけど、大人でも難しい!)
親御さんに了承をとって、学校との情報共有を行ったんだけど。
先生の話を聞いて驚いた!
「衝動性と多動が目立ちます。
授業中勝手に飛び出して行ったり、衝動的に先生や友達を叩いたり。」
確かに多動はある。
でも、衝動性は目立たない子だ。
時計を壊す前も(あ、壊したって言った)、「時計触っていい?」って僕に許可を取ったし。
仮面ライダーについて延々話すんだけど、所々「あ、ディケイドって昔の仮面ライダーで」とか僕の理解を確かめて補足を入れるし。
学校の先生は、この子をADHDだと思っているっぽかった。
でも僕はASDだと思う。
ADHDの診断基準に、症状が複数の場面でみられるというものがある。
つまり、ある一箇所(例えば学校)だけで症状が強く、その他の場所で目立たないのなら、それは発達障害ではなくその環境が合ってないだけってこと。
それで言うと、この子の不注意や衝動性は、学校以外では全く目立たないのだ。
「あぁ、二次障害なんだろうな」
僕は思った。
本来この子はASDで、多動やコミュニケーションの困難さはある。
でも衝動的に人を叩いたり、思いつきで外に飛び出していくタイプではないのだ。
「先生が怖い」
しきりにこの子が言っていたように、先生と合わないのだろう。
もともとかなり賢い子だ。
理屈を通せば集団生活は結構できる。
ルールは頑なに守るタイプ。(ASDだから)
でも、自分の主張を聞かずに叱りつけられたり、追いかけ回して力づくで連れ戻されたりした経験から、先生に対する不信感が芽生えた。
納得できないし、また変なことを強要されると思うからこそ、この子は必要以上に暴力的に、衝動的になったのだと思う。
ザ・二次障害。
ASDの子を例に出したが、様々なタイプの二次障害がある。
HSCが、周囲から否定されることで自信をなくすとか典型的。
生まれ持ったみずみずしい感性を、「どうせ自分は変なんだ」と隠してしまったり。
たった一度の否定された経験から、その後の肯定的な評価を受け取れなくなったり。
ADHDも二次障害を起こしやすい。
悪気がないのに忘れ物が多かったり、友達とのトラブルを起こしたり。
叱られ続けることで、自己肯定感が下がる。(叱られてもこたえてないように見えるが、実はしっかり傷ついている)
「どうせ俺が悪いんだろ!」と必要以上に反抗したり。
定型発達児でも、親から否定されたり親の不安を押し付けられたりすると、二次障害を起こす。
「あなたのこんなところがダメ」というメッセージを送り続けると、それが本人にすりこまれ、実際にその通りのダメなことをする。
二次障害を起こすと、もっと二次障害を起こす。
何言ってるの?
具体的には
叱られるせいで自暴自棄になり、悪態をついたり反抗したりする。
↓
もっと叱られる。
↓
もっと自暴自棄になる。
というスパイラル。
これが続くと、本来持って生まれた気質が見えなくなる。
もともと暴力的なところがある子なのか、そうでもないのか。
本当は優しかったり集中力があったり、何か秀でたものがあったかもしれないけど、それも見えなくなる。
「乱暴な子」としかみられなくなる。
「内向的な子」
「ネガティブな子」
「忍耐力のない子」
そんな欠点ばかりが目立って、この子の本来の気質は闇の中だ。
それな。
二次障害を起こしてしまった子。
例えばその「乱暴な子」。
どう接すればいい?
冒頭の子は小学1年生なのだけど。
二次障害を起こしてまだ1年足らずだったので、診察でASDとわかった。
診察室ではADHDの特性が目立たなかったからだ。
でも、何年も繰り返していた場合。
「大人はみんな敵」と思って、僕に対しても攻撃的だった場合。
自宅でも、親に対して衝動的で攻撃的だった場合。
診断名はADHDになっていたかもしれない。(ちなみに診断って「どんな特性によってどのくらい困るか」でつける)
二次障害を起こすと、わからなくなる。
何が問題の根幹なのか。
じゃあどうしてあげたらいいのか。
わからないから変な接し方をして、さらに二次障害を深めていく。
自意識とか潔癖とか不安とかが加わる思春期頃には、もうさっぱり何がなんだか状態。
そうして非行に走ったり何かに依存したり無気力になったり、頭痛や腹痛や不安障害や引きこもりにつながったり、その他もろもろの『大きな問題』になっていく気がしている。
『二次障害』を起こさないことだ。
それが正攻法だし、一番簡単だし、最も成功率が高い。
そのためにはやっぱり、持って生まれた性質をそのまま受け入れてあげることなんだと思う。
「あなたはそう思うんだね」
話を聞いて、肯定してあげることだと思う。
わかってもらえないことが二次障害の引き金だと思う。
「あなたはそう思うんだね」
思いを肯定することと、行動を肯定することは別。
悪いことをしたのかもしれないけど、その裏にあった思いは聞いてあげてほしい。
それが二次障害を防ぐと僕は考えている。
View Comments
先生いつもありがとうございます。
二次障害を起こしてしまいました
元々多動傾向の子
反抗的で皆敵状態
抑える為に投薬の案が出て
投薬で対処するべきか非常に悩んでいます。
環境調整が整わず理解のない場所であるからです。
学校は薬ありきな考えで 改善の余地のない場所での投薬というのは腑に落ちないのです。
一日の内の長い時間を過ごす学校ですから、当然先生と合わない場合も大いにあり得ますね。
軽度のASDの次男がこの春から小学生になりましたが幼稚園から今まで先生との相性で悩んだことがないので盲点でした。
主に私が日常生活で対応に困るだけで、びっくりするくらい集団生活で問題行動が少なかったので、まさにおっしゃる通り「多動やコミュニケーションの困難さはあるが、衝動的に人を叩いたり、思いつきで外に飛び出していくタイプではない」のです。
なので入園前や入学前の面談で「聞いていなかったらおそらく気付けなかった」と担任に言われたほどです。
それでひとつ思い出したのが、幼稚園時に時々園長先生直々に「部屋から飛び出して心配になることがある」と言われたことがありました。
そういうタイプでないのにおかしいなぁと不思議に思ったものの家で様子を見ててもやっぱりそういう素振りはなく、担任に聞いても首をかしげられましたが、あれはきっと園長との相性の問題だったのかもしれませんね。支援員のお休みの時など園長がクラスに入ることがしばしばあったので。
実は私も苦手なタイプの方だったので、同じように次男も思っていたのかもしれません。
その時の疑問が今更ながらすっきりしました。
小学校で定期的にある懇談(任意)では無事学校生活を送れているか確認したくて行っていましたが、家と学校での様子の違いを確認するためにも必要ですね。
そのようなことがあったのですね。園長先生との相性ですかね。
学校と家で様子が違うことは、結構あるようです。
なので様子の確認は有用だと僕は思います。