ASD (自閉スペクトラム)とHSC (敏感な子)の違い。
これはとても難しいと思っている。
絶対的な答えはないだろう。
そもそもHSCは医学的な概念ではないので、医学の話ではなく僕個人の見解として聞いてもらいたい。
ASDとHSCは、感覚過敏やこだわりが共通する。
イマジネーション豊かで自分の世界に入り込んでしまう。
いっぱいいっぱいになりやすく、かんしゃくを起こす。
新しいことへの不安が強い。
納得いくまでしつこく質問する。
世の中のルールや自分で決めたルーチンなど、頑なに守ろうとする。
そんな似ているところの多いASDとHSC。
実は僕は長いこと、両者は同一のものを別の側面から見ているのだと思っていた。
こんなお子さんがいた。
ASDの女の子だ。
IQ90台でWISC項目ごとの凸凹は目立たず、母のソーシャルスキルトレーニングが上手だった子。
幼児期は人との距離感がつかめずトラブルが多かったそうだ。
こだわりの対象が『人』で、気に入った友達を追いかけ回して嫌がられていたという。
「人にしつこくしたら相手は嫌だよ」と母が上手に教えたこと、そして小学生でうまく空気が読めずいじめにあった経験から、周囲の顔色を過剰に伺うようになった。
中学生になり、そんなおどおどした彼女を家来のように扱う友達が出てきた。
離れればいいのに、彼女はそのいじめっこに執着してしまい、離れられない。
なんとかうまくやろうとするが、ASDなので上手に空気が読めるわけではない。
「アンタって、カワイイよね〜」
そう言われ、その『カワイイ』にトゲがあることはなんとなーくわかるものの、自分のもやもやした気持ちの正体を自覚できない。
頑張って頑張って頑張って、あるとき折れて不登校となり僕の外来にきた、という顛末。
外来の様子をみても、ASDだ。(スペクトラム10段階で6〜7くらいか)
コミュニケーションにやや難がある。
普通に話せはするものの、質問の意図を的確に理解することは難しい。
自分の興味の内容を話しすぎてしまう。
ASDなんだけど、彼女の中で起きている葛藤はまさに、HSCのそれだった。
人目を過剰に気にし、過適応(上手くできてないけど)。
ぐったり疲れやすい、予期不安から翌日の登校をしぶる、自律神経のバランスを崩して頭痛・腹痛・朝起きられない……。
そうなのだ。
人目を気にしすぎるASDって、案外いる。
本には「ASDは空気を読まない、HSCは空気を読みすぎる」って書いてある。
でもASDも、空気を読む。(うまくないけど)
ある程度知的に高いと、後天的に「自分ってなんかヘン」と気づき、周囲に合わせようとする。
気を使いすぎてストレスとなり、起立性調節障害や不登校を発症する。
また別の子。
この子はまさにHSC。
人目を過剰に気にし、過適応(目に見えるトラブルはないが、キャラ作りしすぎて本人がしんどい)。
ぐったり疲れやすい、予期不安から翌日の登校をしぶる、自律神経のバランスを崩して頭痛・腹痛・朝起きられない……。
気を使いすぎてストレスとなり、起立性調節障害と不登校を発症して僕の外来を受診した。
この子の中での葛藤は、上記ASDの子と全く一緒。
「学校がしんどい」
「でもみんなに合わせてうまくやらないと」
「なんとなく浮いている気がする」
「疲れた……でも……」
発言内容も一緒。
ハタ目に適応出来ている出来ていないの差はあれ、『彼女の中では』全く同じ悩みを抱えている。
ASDとHSCの二人の女の子。
この子たちをみて、僕は思った。
ASDって周囲から見た病名、
HSCって自分から見た病名(病気じゃないけど)
なんじゃなかろうか?
同じものを、別の角度から見ているのではないかと考えた。
ASDは、周囲が困る。(ちなみに発達障害って、周囲(ひいては本人)がどのくらい困るかで診断をつける)
HSCは、自分が困る。
両者の指す実態は、実は同じものなんじゃないか、と。
人類の中に、刺激に敏感で想像力豊かな一群がいるのではないかと考えた。
この人たちは感覚が他の人とは異なるので、生きづらいだろう。
トラブルを起こすと周りが困るのでASD (発達『障害』)と呼び、
トラブルは起こさないが本人が困る場合HSCと呼ぶのではないか、と。
だから、周りは困らないのでHSCは発達『障害』ではなく、医学的な概念ではないのでは……。
ずっとそんな風に思っていた。
のだが。
最近は、そうは言っても根っこのところでは別のものなのかもなーと思っている。
サメ(魚類)とイルカ(哺乳類)みたいな。
表現形は似ているけど、ベースは別、みたいな。
次回僕の今の見解と、外来での見分け方の話。