そんなことがあって、病院を受診してみた。
だけど、診断名はつかなかった。
よく聞く話だと思うけれど、これってどうして起きるの?
こんなとき、どう考えどう接したらいい?
まず、診断がつかない理由。
グレーゾーンとか発達凸凹とか称されたりする。
これってなに?
なんでこうなるの?
せっかく受診したんだから、診断してくれたらいいじゃんケチ!
発達障害の診断って、「どのくらい困るか」でつける。
※いまだに根強く誤解されているが、検査では診断できません。WISCでも田中ビネーでも診断できないヨ。
「どのくらい特徴が強いか」ではなく、「どのくらい困るか」が優先する。
だから同じくらい特徴のある子が二人いたとして、
片方は発達障害と診断され、もう一人は診断されなかったとしてもおかしくはない。
かなり特徴が強くても、周囲も本人もさほど困っていなければ診断はつけない。
反対にさほど特徴が強くなくても周囲が困り、ひいては本人も困っていれば診断をつける。
ぶっちゃけ、担任の先生の対応が上手で、かなり特徴があっても診断不要な子もいるし、
先生に余裕がなさそうで、そこそこの特徴でも診断を要する場合もある。(ADHDとか顕著)
すごく強く特徴が出ている子。
自閉『スペクトラム』という言葉があるが、スペクトラムを10段階で表現すると9〜10の子。
これは誰が見ても自閉症の診断をつける。
※自閉症は0か100かではなく、どのくらい特徴があるかグラデーションで表現する。
でも5〜8くらいの子。
この子たちは、診断がついたりつかなかったりするわけだ。
同様に、ADHDの特徴もスペクトラム状になっており、薄い子から濃い子まで様々だ。
この図を見てほしい。
今作ってみた。(ドヤッ)(雑さは性格)
僕は外来で、この図を頭に思い浮かべるようにしている。
ASD (自閉スペクトラム)とADHD、それぞれどのくらいの濃さがあるか、表にしてみるのだ。
青とオレンジで網掛けしたところは、誰がみても診断をつけるレベルと解釈してほしい。
例えば、下の図。
星で示した子。
ASDの特徴は強く、ADHDは薄い。
この子は自閉症で異論ないと思う。
じゃあこの子は?
そう、自閉症とADHDの合併だ。
こんな感じで、子供の数だけ星の位置にバリエーションがある。
じゃあこれは?
ASDの特徴は7くらいで結構ある。
ADHDは5くらい、まあ気になる程度には特徴がある。
この子の診断は?
こんなときに『発達グレー』なんて言葉が出る。
医者によっては自閉症と診断することもあるだろう。
自閉症ではなく、ASD (自閉スペクトラム)とすることも多そうだ。
また別の医者はASDとADHDの合併と診断するかもしれない。
どれも正しい。
そして。
この子が、クラス替えで担任の先生が変わったとする。
なんと、星の場所が動いた!
環境によって、特徴の出方に差が出るのだ。
※すごく大きくは変わらない。ほぼ症状のない子が診断レベルになることはまずない。
だから以前は診断がつかなかった子が後になって診断されたり、逆に以前は診断されたけど今は診断不要レベルってこともあり得る。
そんな感じで、診断って流動的なものだ。
そして典型的な自閉症、典型的なADHDって多くないとお分かりいただけるだろうか。
どちらの特徴も混ざっていることが多い。
どんな特徴がどの程度あるかで、その子に対する接し方って変化して然るべきだと思う。
↓この子と
↓この子
どちらも自閉症の診断なんだけど、必要な配慮は異なるだろう。
これが、診断の難しさ。
その気持ちは分かるが、診断にこだわらず、まずその子の星がどの位置にあるのか見極める方がよいことも多い。
数字が高いと、つまり困っている(周囲および本人が)ということなので、その困りごとに対する対策を具体的に考えるのがよいだろう。
「この子はASDなので、見通しを持たせて、指示は直接的な表現で……」
もちろんそれも良いのだが、それでうまく行くこともあれば、行かないこともある。
診断名にこだわるよりも、その子の特徴をみて困りごとにその都度対処する方がうまくいきそうだ。
余談だが。
この星の位置の見極め、実は学校の先生には難しい。
先生は今のこの1年間、教室内というシチュエーションしか見ていないからだ。
そして医者にはもっと難しい。
診察室の中で、たかだか数十分しか見ていない。
小さい時からずっとみているお母さんの方がよくわかる。
以前はどうだったか、別の環境ではどうなるのかが分かるのは、親御さんだけ。
だからこそ、診断がレッテル貼りになってしまうことも多い。
「自閉症です」と診断名を学校に告げると、『いわゆる自閉症児』として対応されてしまうことがある。
そこに悪気はないのだけれど、それではうまくいかなかったりする。
この子はどんな特徴があって、こういう場面で困り、どうするとうまく行きやすいのか。
親御さんが丁寧に説明する方が、先生の理解が深まり、軋轢が少ない。
そう思うからこそあえて診断しないこともよくある。