「ポジティブになる方法」
「ポジティブであり続けるには」
「ポジティブ思考の効果」
テレビやネットでよく耳にする。
物事をプラスに考え、前向きに進んでいこうとする思考法というか、自己啓発というか。
そうよそうよ。
身の回りの全てに感謝、ポジティブな言葉を口にすると幸運を引き寄せるっていうし、健康にも良い気がする!
そんな思考自体を、僕は否定しない。
前向きに考えるのは素敵なことだと思う。
でも。
ポジティブすぎておかしくない?
ポジティブ思考にとらわれちゃってるんじゃないの?
そんな子が、僕の外来に何人かいる。
手放しでポジティブを礼賛するのではなく、こんな弊害もあったよという事例報告として、頭の隅に置いていただけるとありがたい。
中学生くらいの、不登校か起立性調節障害か過敏性腸症候群か片頭痛かそれらの合併の子。
男子も女子もいるが、女子に多い。
「体調が悪くて学校に行けない」みたいな主訴で受診する。
体調不良のベースにはストレスがあることが大半なので、学校での様子を尋ねる。
学校に行けないのならストレス源は学校のはずだ。
すると。
想定外の答えが返ってくる。
成績優秀、友達たくさん、先生からの信頼も厚く、生徒会や学級委員なんかを務めていたり。
ん?
学校がストレスになっていると踏んだんだけど、そうでもないの?
「学校はすごく楽しくて、友達もみんないい人。
いじめとか全然ないんです。
先生も面白くて優しい。
学校を100点満点で採点すると? もちろん100点!」
本人に聞くと、そんなことを言う。
僕は違和感を覚える。
中学生で、人間関係の悩みがないなんて、あり得なくない?
中学女子なんてドロドロが普通じゃないの?
スクールカーストとか変な上下関係とかあって、空気の読み合い、陰口の言い合い。
お互いに監視し合って、顔を合わせれば表面的な同調。
ちょっと人と違う言動や見た目があれば、総攻撃。
うまく取りいらないと自分が標的にされるのも目に見えているし。
それが中学生の『普通』の姿じゃ?
僕の偏見?
にしても何の問題もないってあり得る?
発達障害や知的障害はいかにもなさそうな、明朗快活な子。
コミュニケーションスキルも良好。
この子がそのドロドロした空気感に気づかないはずがない。
この子に、SCT (文章完成法テスト)というのを行う。
「私の父は___」「私はよく___」など、未完成な文章の続きを書いてもらい、その人のパーソナリティを見る検査だ。
すると、
プラスの内容に関しては、素敵なエピソードが生き生きと綴られてくる。
情景描写含め詳細に記載され、知的に高く語彙が豊富な子であることを印象付ける。
一方、マイナスの質問になると内容が極端に薄い。
うっっっす!
小学生の読書感想文か。
安い居酒屋のウーロンハイくらい薄い。
シャバシャバカレーくらい薄い。
問診でもSCTでも、ネガティブな内容は語られない。
ポジティブな内容はキラキラした目で話してくれるのに。
バランス、おかしくね?
推察するに、この子はネガティブな気持ちに蓋をしているものと思われる。
学校は楽しいところで友達もみんな優しい「はず」。
自分は学校生活をエンジョイしているに「違いない」。
『こうあるべき』という思い込みから、本当の気持ちに蓋をする。
あの子ちょっと合わないかも……とか思っても、
いやいやそんなはずはない、と即座に自分で否定、考えを打ち消す。
みんな仲良しが正しい。
学校は楽しいべき。
清く・正しく・美しく。
悪いことじゃないんだけど、いかにも疲れそうだ。
それで無意識にストレスがたまり、体調を崩す。
うん、これなら合点がいく。
ポジティブ思考はいいことだと思う。
でも、完璧主義な人にとってはしんどくなることがある。
少なくとも思春期の潔癖な時期(そういう時期ってありますよね)には、酷なようだ。
人間だもの。
黒い気持ちがあって当然。
認めてあげないとどんどん育ち、存在を主張するようになる。
それでも無視し続けると、体調を崩す。
彼女は自分の中に「黒い気持ち」なんてあるわけないと思っているので、その存在に気づけない。
なんかしんどい、この気持ちは何だろう?
……そうか、お腹が痛いのか! そういえば最近ダルくて起きられない気がする!
自律神経のバランスを崩し、身体症状を発症する。
ポジティブがあるのは、ネガティブがあるから。
光あるところに影あり。
どちらも自分の本音。本当の自分。
そう認められると楽になるんじゃないかなーなんて、ネガティブ思考のカタマリの僕は思っている。